美術手帖 2017年9月号
「Editor's note」

8月17日発売の『美術手帖』 2017年9月号は、「川島小鳥」特集! 編集長・岩渕貞哉による「Editor’s note」をお届けします。

『美術手帖』2017年9月号より

 今号は「川島小鳥」特集をお送りします。2007年の『BABY BABY』での鮮烈なデビューから10年、『未来ちゃん』(2011年)の大ヒット、『明星』(2014年)での木村伊兵衛写真賞受賞と、写真家として着実にそのキャリアを積み上げてきた。川島はいま、もっとも撮ってもらいたい写真家のひとりだろう。

 しかし、その人気に比して、川島小鳥の写真について、写真さらに美術の文脈から語られることは決して多くなかった。それは、これまで美術館などでの展示の機会が少なかったことにも依るだろう。が、川島の写真はたしかに批評的、分析的な言葉で語りにくいものがあり、それがいっぽうで彼の写真の魅力でもあるのだと思う。

 かくいう私も当時、『BABY BABY』を何かの拍子に書店で見つけ、他の人に知られたくない宝物のように家に持ち帰った経験がある。だからだろうか、川島の写真を見るとき、見るもの自身の淡い記憶やこうであったかもしれないという願い、そして感情抜きには語ることがむずかしい。こうした、個人的な記憶や感情に訴える作品は、コンテクストが重視されるコンテンポラリー・アートの中で、これまで取り上げることの難しいものでもあった。

 それでも、アートがアートの中での視覚言語やリニアな美術史の評価軸だけで完結するものではなく、私たち人間の人生や生活の中で営まれる活動と切り離せないものであるかぎり、個人の記憶や感情、別世界への憧れといった客観的な評価の俎上に載せづらいものをどのように価値判断し、受容していくのか。川島小鳥の写真は、アートの側に突き付けられた試金石であるのかもしれない。

 今回、ロング・インタビューや写真家・石川竜一との対談で聞くことのできた自身の写真に対する思考や、アーティスト、キュレーターのテキストから、今後、川島小鳥の写真を読み解くうえでのキーワードやテーマが提出されたことの意味は大きい(なかでも、金氏徹平ディレクションによる川島小鳥のセルフパロディのかたちを借りた、川島小鳥論は出色の出来!)。

 そして、写真でしか出会うことのできない世界のリアリティを追い求める初期作から、『明星』以降の現実世界を受け入れていくような視線、そして、その二つが折り重なっていく重層的な世界観と、川島小鳥は新しい領域を切り開いていっている。その最新形は、本特集の撮り下ろしでも見ることができる。言葉に追いつかれない速度で─。

2017.08
編集長 岩渕貞哉

『美術手帖』2017年9月号「Editor’s note」より)

編集部

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