遅れ際立つ日本。世界各国の文化支援策まとめ

新型コロナウイルスの拡大によって大きなダメージを受けている文化セクター。世界各国では、文化支援策がまとまり始めている。現状をお届けする。

協力=藤井慎太郎(早稲田大学文学学術院教授)

Pixabayより

 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、美術・演劇・舞台・音楽など文化芸術セクターで危機感が高まっている。興行や展覧会などの中止によって、文化芸術に従事するスタッフ、あるいはアーティストらの収入が途絶えるケースもあり、各国はその支援策取りまとめを急いでいる(この情報は3月30日時点のものです)

イギリス:216億円を緊急拠出

 イギリスでは、3月20日にスナック財務大臣が雇用を維持する企業に2500ポンド(約34万円)を上限として、給与の最大80パーセントを助成することを発表。その予算規模は3500億ポンド(約47兆円)に上る。

 そんななか、アーツカウンシル・イングランドは1.6億ポンド(約216億円)の緊急支出を決定。内訳は、フリーランスを含む個人向けが2000万ポンド(約27億円、1人当たり最大2500ポンド=約34万円)で、ナショナル・ポートフォリオ助成団体向けには9000万ポンド(約122億円)、それ以外の団体には5000万ポンド(約68億円)となっている。

フランス:舞台芸術・映画の労働者の失業手当受給条件を緩和

 舞台芸術・映画のフリーランス労働者でも失業手当を受給できる制度「アンテルミタン・デュ・スペクタクル」があるフランス。

 文化省は第一弾緊急支援策として3月18日に2200万ユーロ(約26億円)の拠出を決定した。映画関係では、映画館入場料税(映画支援の財源)の支払いを猶予し、音楽では不安定な立場のプロフェッショナルに向けられた支援基金(当初予算1000万ユーロ=約12億円)を創設。入場料税の支払いも猶予する。

 音楽を除く舞台芸術では、雇用の維持に配慮し、民間劇場に対して500万ユーロ(約6億円)の緊急支援を実施。公共劇場については、パートナーの地方自治体と連帯して、衝撃の緩和を図るという。

 また美術関連では、アート・ギャラリー、公共アート・センター、芸術家=作家の支援のために緊急基金(当初予算200万ユーロ=約2億4000万円)を創設。ギャラリーに対する支援の基準を緩和し、延期されたアートフェアの参加ギャラリーに対する助成金は、すでに生じた経費を処理できるように維持するとしている。

 なお3月19日には文化省と労働省がアンテルミタンや短期契約労働者の失業手当受給条件緩和を発表。封鎖期間中に切れる失業手当は封鎖が解けるまで延長する。

ドイツ:6兆円の財政出動で手厚さ目立つ

 連邦政府のグリュッタース大臣が「芸術・文化・メディア産業におけるフリーランスおよび中小の事業者に対する大規模な支援」を約束したことで大きな存在感を示したドイツ。

 3月23日には連邦政府が7500億ユーロ(約90兆円)規模の財政出動を決定した。そのなかで、零細企業・自営業者(芸術や文化の領域も対象に含む)に対しては500億ユーロ(約6兆円)を拠出。助成金(企業の規模に応じて、3ヶ月で上限9000〜15000ユーロ、約108万円〜180万円)や融資(30000ユーロ以上、約360万円以上)といったかたちで当座の資金を提供する。加えて、個人の生活維持のために100億ユーロ(約1兆2000億円)を支援し、各種のイベントやプロジェクトが中止になった場合でも助成金の返還は可能な限り求めないとしている。

イタリア:緊急基金を創設

 イタリア政府は、舞台芸術・映画・視聴覚産業の企業・作家・芸術家・実演家を対象とする緊急基金(1億3000万ユーロ=約156億円)の創設を発表。また、文化・観光セクターの労働者に所得補償(セーフティ・ネット外の労働者まで対象)を行うほか、企業に対しては租税・社会保障負担金の支払い猶予の措置を取る。

アラブ首長国連邦:作品購入でアーティスト支援

 アラビア半島最大級のアートフェア「アート・ドバイ2020」が開催中止となったアラブ首長国連邦(UAE)では、外務省の公共・文化外交部が同連邦のアーティストによる約40万ドル(約4332万円)の作品購入を発表。

 購入されたこれらの作品は、「Artists in Embassies」というプログラムの一部として世界各国のUAE大使館に設置される予定。これは現状他の国にはない支援策だ。

アメリカ:約83億円の緊急支援を決定

 NEA(米国芸術基金)は、非営利芸術団体向けに7500万ドル(約83億円)の緊急支援の方針を発表。通常はプロジェクト・ベースの事業費助成のところ、運営費に充てることが可能となる。内訳として、40パーセントは州・地方レベルの芸術支援団体、60パーセントはそのほかの応募芸術団体に配分される。

 なおアメリカでは3月25日に新型コロナウイルス救援・救済・経済安定(CARES)法が成立。企業・自治体向け支援に5000億ドル(約5兆5000億円)、中小企業向け融資プログラムに3490億ドル(約3兆8390億円)、現金給付(一定の所得制限のもと1人1200ドル、子供は1人500ドル)、失業保険の受給条件緩和など、総額は2兆ドル(約220兆円)およぶ。

カナダ:フリーランスには15万円を4ヶ月支給

 カナダでは助成団体・芸術家向けの緊急支援策を検討しており、雇用対策として、通常の失業保険の対象とならない自営業者、契約労働者、フリーランス向けの緊急対応手当を創設。2000カナダドル(課税対象、約15万円)を最大4ヶ月支給する。またカナダ芸術評議会は、助成金の範囲で中止や延期にかかる費用(助成対象経費のみ)を支出可能としている。

 ケベック州は、3月16日にケベック州芸術人文評議会が、助成団体・芸術家に対して、短期資金や緊急帰国費用などの手当てなどの緊急支援を実施することを明らかにしている。

オーストラリア:芸術支援に約3億3000万円

 オーストラリア芸術評議会は支出を組み替えて、芸術家・芸術組織の緊急支援に約500万オーストラリアドル(約3億3000万円)を投じる方針を発表。また、連邦政府は求職者手当の増額や中小企業向けに2万〜10万オーストラリアドル(約140万〜700万円)の支援、最大25万オーストラリアドルの融資保証など、総額660億オーストラリアドル(約4兆6200億円)の対応策を打ち出している。

シンガポール:国立文化施設利用料を減免

 シンガポールは3月6日、芸術団体向けに160万シンガポールドル(約1億2000万円)の緊急支援を発表。能力構築(スキルアップ)にかかる費用を助成する。また、国立文化施設の利用料は約3分の1を減免することも明らかにしている。

 また、3月26日には芸術文化セクターにおける雇用の維持のために5500万シンガポールドル(約41億円)を支出すると発表した。

香港:7億円規模の支援スキーム

 香港は、3月5日に香港芸術発展局(アーツ・カウンシル)が芸術文化セクターの支援スキームを発表。当初予算は500万香港ドル(約7000万円)だったが、これを5500万香港ドル(約7億7000万円)へと大幅に増額した。助成プロジェクトについては、1万5000〜13万0000香港ドル(約21〜182万円)を追加助成し、非助成プロジェクトには1万5000香港ドル(約21万円)、芸術家個人には7500香港ドル(約10万5000円)を支援する。

日本:具体策は現時点で不明

 日本は3月28日に宮田文化庁長官がメッセージを発表したものの、内容に具体策は盛り込まれていない。安倍総理大臣は、過去最大級の緊急経済対策を策定する方針を示しており、中止されたイベントなどについては損失補償ではないかたちの対策を講じる方向となっている。

*ドイツに関する記述に不正確な部分があったので、訂正する(4月7日)

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