あいちトリエンナーレ参加作家による新プロジェクト「ReFreedom_Aichi」がスタート。「あいち宣言」草案作成やコールセンターも

あいちトリエンナーレ2019の一企画である「表現の不自由展・その後」の展示中止と、それに関連する一部作家の展示中止に関し、同トリエンナーレ参加作家たちが協働する新たなアクション「ReFreedom_Aichi」が発表された。

 

記者会見の様子

 一企画である「表現の不自由展・その後」展示中止に関連し、相次いで作品の展示中止が起こった「あいちトリエンナーレ2019」。この状況に対し、閉鎖されているすべての展示作品の再開を目指すプロジェクト「ReFreedom_Aichi」が発表された。

 本プロジェクトの主体は、あいちトリエンナーレ2019に参加している国内外のアーティストたち35組。「表現の不自由展・その後」の展示中止にともない、これまであいちトリエンナーレ2019で起こってきた参加作家の展示辞退や作品の変更、あるいはステートメントの発表、アーティスト・ラン・スペースのスタートなどの様々な動きを、展示再開という「共通したひとつのゴール」に導くため、パッケージすることを目指すという。

 9月10日に日本外国特派員協会で行われた記者会見では、卯城竜太(Chim↑Pom)、高山明、小泉明郎、ホンマエリ(キュンチョメ)、大橋藍、加藤翼、藤井光、村山悟郎が参加。

記者会見の様子

 まず冒頭、小泉は展示室を閉鎖したタニア・ブルゲラについて「タニアはそのキャリアを通じて数々の検閲を体験してきた。彼女にとって、一度検閲された扉が開かれた体験はない。ただ今回は奇跡が起きるんじゃないかと言い残して日本を発った」と言及。そのうえで、アーティストたちはその「奇跡」を鑑賞者との連帯によって起こさなければいけないと強調した。

閉じられているタニア・ブルゲラの展示室

 いっぽう、「表現の不自由展・その後」の出展作家でもあるChim↑Pomの卯城は、「自分で自分の人生を決める自由、他人の考えに強要されない生き方をする権利は、自分たちが自分でものを見て考え、知って、そのなかで表現することでしか生まれない」としたうえで、「私たちは考えを述べる以上に、(問題の)解決を目指すために『ReFreedom_Aichi』をオーガナイズした」とその背景を説明する。

 では具体的なアクションはどのようなものが予定されているのだろうか? 

 「ReFreedom_Aichi 」に含まれる活動は、「ネゴシエーション」「セキュリティ」「オーディエンス」「アーカイブ」「ファンディング」「プロトコル」の6つ。

 「ネゴシエーション」では、「問題への具体的な提案、県や運営側などへの交渉や要求」のほか、「再開までのロードマップ作成」などを実施。ボイコットの選択肢を持つアーティストとのコレボレーションも視野に入っているという。

 また「セキュリティ」では、高山明が主導する演劇プロジェクト「アーティスト・コールセンター」を立ち上げる。高山は、「表現の不自由展・その後」が中止となった背景にある抗議電話を、愛知県職員ではなくアーティストが受けるためにこのコールセンターの設立に至ったと説明。その過程で、「公共」「公共サービス」とは何かをワークショップを通して問い直し、「公共」「公共サービス」に関するガイドラインを作成すると語った。なお県とはまだ交渉ができいない状態だという。

 「オーディエンス」においては、来場者にそれぞれが感じた「不自由」を付箋に書いてもらい、閉じられている展示室の扉に貼っていく「#YOur Freedom Protect」を提案。これは、作品内容を変更したモニカ・メイヤーのコンセプトを受け継ぐものだ。

展示内容が変更されたモニカ・メイヤー《沈黙のClothline》(2019)

 なお「オーディエンス」には、すでに発表された「表現の不自由展・その後の中止に対する『ジェンダー平等』としての応答」や、加藤翼・毒山凡太朗による自主スペース「サナトリウム」の活動も含まれている。

 加えて重要なのが、「プロトコル」だ。大村秀章愛知県知事は8月20日付で、あいちトリエンナーレ2019の参加作家に対して送付した書簡のなかで、各国政府や世界に対して表現の自由をアピールする「あいち宣言(プロトコル)」を提案。現在のところこの宣言の内容などは明らかになっていないが、「ReFreedom_Aichi」はこれに対しアーティストとしての草案を作成。日本の芸術祭や美術館の実態を踏まえた表現の自由の確保など、今後も様々な機関で批准されるべき理念と具体策を、外部アドバイザーやトリエンナーレ関係者とともに構築するとしている。

 こうしてアーティストが積極的な動きを見せるいっぽう、懸念されるのが芸術監督・津田大介や、あいちトリエンナーレ実行委員会、「表現の不自由展・その後」実行委員会との協調だ。これについて卯城は、「アーティストとしては芸術監督や知事と一定の距離間を保たなければいけない」としながら、津田、大村知事、不自由展実行委員会の3者がスムーズに交渉できることが展示再開の前提であることを強調。3者間の協議を求めるつつ、進展がない場合はボイコットを含むより厳しい態度でのぞむケースもありうるとした。

 展示再開には、今回の展示中止のきっかけのひとつとされている河村たかし名古屋市長との対話も必要となってくる。卯城はこれについてもオーディエンスの声が重要だと語る。「展示再開に向けてアーティストがまず動き、見る権利が奪われているオーディエンスの声が大きくなることが重要。その声が政治家に対してインパクトを与えられる」。

 なお「ReFreedom_Aichi」は、アーティストたちによる自主運営のため、クラウドファンディングで資金を調達。1000万円を目標にファンディング・プロジェクトが立ち上がっている。

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