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「連帯を示すために」。展示室閉鎖、内容変更に見る「あいちトリエンナーレ」海外作家たちの態度表明

「表現の不自由展・その後」で揺れるあいちトリエンナーレ2019。「表現の不自由展・その後」が「検閲」によって中止されたことに抗議し、連帯を示すため、海外作家たちが展示の一時中止や内容変更などで態度を表明した。

 

作品名と展示内容が変更されたモニカ・メイヤー《沈黙のClothline》(2019)

 8月12日付でオープンレターによって自らの態度を表明した、「あいちトリエンナーレ2019」に参加する海外作家たち。17日には、実行委員会が各作家と協議の末、出品作品の展示を一時中止または内容変更を行うことを発表し、その結果が20日から会場に反映された。

 「表現の自由を守る」と題したオープンレターに署名したのは、イム・ミヌク、パク・チャンキョン、ウーゴ・ロンディノーネ、タニア・ブルゲラ、ピア・カミル、クラウディア・マルティネス・ガライ、レジーナ・ホセ・ガリンド、ハビエル・テジェス、モニカ・メイヤー、レニエール・レイバ・ノボ、ドラ・ガルシアの11組に、あいちトリエンナーレ2019のキュレーターのひとりであるペドロ・レイエスを加えた12組。

 この声明のなかでアーティストたちは「トリエンナーレ内の展示会場を一部閉鎖するという決定を、決して容認することのできない検閲行為として非難します」と、「表現の不自由展・その後」の展示中止を強く批判。

 あいちトリエンナーレ実行委員会に対しては「不合理な脅しと政治的な要求に屈したことは、表現の自由を侵すもの」としながら、展示再開を訴えた。そのうえで、「私たちは検閲されたアーティストたちとの連帯を公に示すための身振りとして、『表現の不自由展・その後』が観客に閉ざされている限り、トリエンナーレに展示されている自らの作品を一時的に停止するよう、運営側に要求します」としていた(全文は記事最下部に掲載)。

 では具体的にアーティストたちはどのような態度を表明したのか。

 まず、1978年から続くプロジェクト《The Clothline》を名古屋市美術館で展示していたモニカ・メイヤーは、作品名を《沈黙のClothline》に変え、展示内容も大幅に変更した。

 本来、会場には「あなたもしくは、あなたの身近でセクハラ・性暴力が起こりましたか? それはどのようなものでしたか?」という問いがプリントされた紙が用意されており、鑑賞者はその問いに答え、掲出するかたちで作品に参加することができた。しかし今回の変更では、これまでの鑑賞者が書いた用紙は回収され、会場には問いかけだけを記した紙が散乱している。社会で見えづらい性差別を可視化させるための装置を機能させないことで、検閲に対する抗議の意思を示したかたちだ。

モニカ・メイヤー《沈黙のClothline》の展示風景

 モニカは今回の展示変更について、独自のステートメントを発表。そのなかで、「『あいちトリエンナーレ2019』の一部であるこの展示は、テロの脅威によって閉ざされました。トリエンナーレの参加者として、人々が彼らの体験を共有し声を上げるための場所を開くアーティストとして、私は、作品が検閲されている仲間のそばにいます。そしてこの困難な状況に直面しているトリエンナーレで働く人々と連帯します」としている。

モニカ・メイヤーによるステートメント

 愛知芸術文化センターでは、すでに展示室を閉鎖していた韓国のイム・ミヌクとパク・チャンキョンに加え、ハビエル・テジェスとタニア・ブルゲラの2組が展示室を閉鎖。

閉鎖されたハビエル・テジェスの展示室
閉鎖されたタニア・ブルゲラの展示室

 1階の吹き抜けでは、ロックバンドのTシャツを縫い合わせた巨大な幕とスピーカーを組み合わせた《ステージの幕》を展示していたピア・カミルが、幕の下部をたくし上げ、スピーカーをむき出しの状態へと変更。スピーカーは沈黙し、音を出すことはなくなった。

ピア・カミル《ステージの幕》の展示風景

 名古屋在住のラテンのルーツを持つ外国人の労働者に対し参加を呼びかけ、作家主催のパーティの様子を記録した映像作品《LA FIESTA #latinosinjapan》を制作したレジーナ・ホセ・ガリンドは、映像の上映を中止し、展示室には撮影で使用された小道具が散りばめられ、沈黙している。

レジーナ・ホセ・ガリンド《LA FIESTA #latinosinjapan》の展示風景

 また植民地支配をテーマにしたインスタレーションと映像からなる《・・・でも、あなたは私のものと一緒にいられる・・・》を制作したクラウディア・マルティネス・ガライも、映像上映を中止。インスタレーションの展示照明は落とされ、ロープで結界が張られた。

クラウディア・マルティネス・ガライ《・・・でも、あなたは私のものと一緒にいられる・・・》の展示風景

 ドラ・ガルシアはパフォーマンス作品《ロミオ》を愛知芸術文化センターと名古屋市美術館、そして四間道・円頓寺で展開しているが、掲出してあるポスターには、オープンレターの文面が貼られ、本来のデザインは著しく損なわれている。

 ドラ・ガルシア《ロミオ》のポスター

 豊田市美術館では、レニエール・レイバ・ノボのインスタレーション《革命は抽象である》が内容変更された。旧ソ連の巨大モニュメントを模した立体と、絵画で構成された本作。彫刻の一部は黒いゴミ袋で、絵画はすべて新聞によって覆われた。その新聞はどれも「表現の不自由展・その後」にまつわる記事を掲載した紙面であり、今回の騒動のアーカイブのようにもなっている。

レニエール・レイバ・ノボ《革命は抽象である》の展示風景
レニエール・レイバ・ノボ《革命は抽象である》の展示風景

 なお、対応協議中とされていたウーゴ・ロンディノーネに関しては、展示継続が決定。署名には加わっていないが、CIR(情報調査センター)は8月10日をもってすでに展示を辞退している。

 こうした展示室閉鎖や内容の変更は、すべて作家たちの指示を受け、実行委員会事務局が行ったもの。「表現の不自由展・その後」が再開されないかぎり、この状態は継続されることが予想される。自らの展示を閉鎖または変更するという覚悟で連帯を示した海外のアーティストたちに、芸術監督・津田大介はどのような応答を示すのだろうか。

「表現の自由を守るために」 私たちは、以下に署名するあいちトリエンナーレ2019の参加作家として、トリエンナーレ内の展示会場を一部閉鎖するという決定を、決して容認することのできない検閲行為として非難します。「表現の不自由展・その後」と題されたその展示室は、国や行政からの政治的圧力と、問題視されている作品を展示から外さなければテロ行為をするという匿名の脅迫者たちの圧力により、8月3日から無期限に閉鎖されています。 以前のアーティストステートメントで公に表明したように、私たちは、トリエンナーレのスタッフと検閲された芸術作品に対する暴力を扇動するような脅迫行為を断固として認めません。展覧会スタッフと観客の安全を確保するため、あらゆる予防措置が取られなければなりません。しかし、その上で、「表現の不自由展・その後」の展示が再開され、当初予定されていたトリエンナーレ閉会時まで継続されるべきだと主張します。 今回の件において、攻撃の主な標的は、キム・ソギョンとキム・ウンソンによる彫刻作品《平和の少女像》でした。この作品は、日本においても今もなお抑圧されている第二次世界大戦時の軍事的性奴隷制度(婉曲的に「慰安婦」と呼ばれている)の歴史的記憶を取り戻すことに焦点が当てられています。私たちがアーティストたちの声を聞き、作品が展示されるよう支援することは、倫理的な義務だと考えます。表現の自由は、どのような文脈からも独立して擁護される必要のある、不可侵の権利です。 ここでいう、表現の自由への攻撃には以下を含みます。 1)河村たかし名古屋市長による「表現の不自由展・その後」の展示中止を求める不適切な発言 2)菅義偉官房長官による文化庁からの補助金の見直しを示唆した威嚇ともとれるコメント 3)展覧会スタッフが受けた数多くの匿名嫌がらせ電話 4)「表現の不自由展・その後」を閉鎖しないとテロ行為をすると脅迫するファックス あいちトリエンナーレ実行委員会が不合理な脅しと政治的な要求に屈したことは表現の自由を侵すものであると考えています。また「表現の不自由展・その後」の参加アーティスト、キュレーターたちおよびその実行委員会との事前の議論を経ずにこの展示室を閉める決断をしたことには疑問を呈します。私たちは、これが検閲でなく「リスク管理」の問題であるという考えには根本的に同意できません。アムネスティ日本、美術批評家連盟AICA JAPAN(原文ママ、正しくは美術評論家連盟)、日本ペンクラブ、そして国内外の報道機関が、これを一つの検閲のかたちとして公的に非難しています。 文化機関として、展示作家の権利と表現の自由を守ることはあいちトリエンナーレの責務です。もちろん人命や安全が危険にさらされたとき、決断が容易ではないことは理解します。しかし公的機関としては、関係機関と連携し、スタッフ、観客、および展覧会に関わるすべての人に対し保護および安全を提供することもまた責任のひとつです。警察には、あらゆるテロ脅迫の場合と同様、真剣かつ正式な捜査を実行する義務があります。すべて、本来なら「表現の不自由展・その後」が閉鎖される前に考慮されるべき措置でした。 お互いに支え合い、励ましてくれた事務局や会場担当のスタッフたちを巻きこむつもりは毛頭ありません。私たちは彼らの熱心な仕事に感謝し、この困難な局面において彼らを支えたいと思っています。しかしながら、すでに「表現の不自由展・その後」が」検閲されてから1週間以上が経ちました。この間に、運営側はアーティストとの公開議論の場を準備することに受け身のままで、私たちアーティストは展覧会を再開することがいかに重要かを強調してきました。そして、少なくとも二人がテロの脅迫を行ったとして逮捕されました。しかしながら、検閲された展示室が再開されるかどうかについて、未だ明快な回答をもらっていません。 従って、私たちは検閲されたアーティストたちとの連帯を公に示すための身振りとして、「表現の不自由展・その後」が観客に閉ざされている限り、トリエンナーレに展示している自らの作品展示を一時的に停止するよう、運営側に要求します。この行為を通じて、あいちトリエンナーレ実行委員会が、政治的介入や暴力に屈して「表現の自由」を妨げることなく、「表現の不自由展・その後」を再開し、素晴らしい仕事を続けてくれることを心より願います。 表現の自由は重要なのです。 タニア・ブルゲラ/ハビエル・テジェス/レジーナ・ホセ・ガリンド/モニカ・メイヤー/ピア・カミル/クラウディア・マルティネス・ガライ/イム・ミヌク/レニエール・レイバ・ノボ/パク・チャンキョン/ペドロ・レイエス/ドラ・ガルシア/ウーゴ・ロンディノーネ

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