結核などの療養所を指す「サナトリウム」。この名を冠したアーティスト・ラン・スペースが、愛知県名古屋市の円頓寺地区でオープンした。
本スペースは、「あいちトリエンナーレ2019」の参加作家である加藤翼と毒山凡太朗が自主的に設立。同トリエンナーレ内の一企画「表現の不自由展・その後」の展示中止に端を発する様々な動きを受けたもので、一時的なスペースとして活用される。
8月25日に行われた公開ディスカッションでは、加藤と毒山のほかに、同トリエンナーレ参加作家のキュンチョメ、小泉明郎、高山明、藤井光、村山悟郎、卯城竜太(Chim↑Pom)ら総勢10組ほどのアーティストが参加。ここでは主にアーティストの発言について概要を紹介したい。
加藤はまず、海外作家たちの展示中止や展示内容変更などが起きている、あいちトリエンナーレ2019の現状について「『〜すべき』が横行している。グレーゾーンがあってもいい」とコメント。「グレーゾーンを肉付けして、より丁寧に見ていこうという思い。ステートメント(全文はこちら)は更新されていき、閉幕と同時に定着する」と同スペースが流動的な性格を持ったものであることを示した。
同スペースにキュレーターはおらず、運営主体はアーティストたち。この運営に関連し加藤は次のように語り、市民との対話が活動のベースにあることを主張した。「(地元住民に)わかりやすく説明していかないといけない。説明できない作品は展示できない。ニュートラルに対話を続けていく場が必要。ここ(円頓寺)は市民とも近いので、対話していければいい」。
「表現の不自由展・その後」の出展作家でもある卯城も「(市民に)もっと芸術のことをわかってもらえれば気づきがあるかもしれない。お互いが先生になって教えあう、学校のようになれば」と賛同の意を示しており、藤井も「公共空間と芸術は切り離せない。芸術と公共、お互いの対話は必要であるということは共有したい」との見解を述べた。
いっぽう、高山はワークショップについて発言。「芸術祭自体を再設定しなくてはいけない時期にあるのだろう。公共をいちから考えるいい機会」としながら、「アーティストや県の人々、自治体の長などの意見を集約したガイドラインをつくれたらレガシーになる。そのワークショップとしてここを使えれば」と芸術祭の枠組み(アーキテクチャー)にコミットすることへの意義について語った。
またキュンチョメは、このスペースでマッサージを中心とした参加型の作品を行い、「サナトリウム」というスペースならではの「癒やし」を提供するという。
現時点で同スペースの開場は不定期。会場には加藤、毒山に加え、あいちトリエンナーレ2019のキュレーターのひとりであるペドロ・レイエスらの作品が展示されている。毒山は「(トリエンナーレに関わる)全作家とコミュニケーションをとりながらやることを考えていきたい」としており、このスペースがあいちトリエンナーレ2019、あるいは芸術監督・津田大介にどのような影響を与えていくのかに大きな注目が集まる。