「写真では荒木が一番だと思っていたけど、今日初めて会場を見てきたんだけど確信したね。やっぱり写真は荒木が一番だなと」。レセプションで荒木自身が発した言葉だ。
7月8日から始まる個展「写狂老人A」。この「写狂老人A」とは、生涯を通じて精力的に制作を続けた葛飾北斎が70代半ばで「画狂老人卍」と号したことになぞらえ、荒木自身を表したものだ。
本展は、荒木の原点とも言える60年代に制作されたスクラップブックから、本展のために撮り下ろされた新作まで、総数1000点超で構成されている。
展示は『週刊大衆』の連載シリーズ「人妻エロス」に応募してきた、人妻たちの姿を大判写真にして並べた「大光画」(だいこうが)シリーズから始まる。真っ赤な「写狂老人A」の文字とともに、140×100センチの大型作品がずらりと並ぶこの部屋で、荒木はこう話す。「私が思ってる写真にいま一番近いのよ。今はみんな可愛い子ばかり。グラビアなんかはつまらないじゃない。これが『女の裸』」。
続く「空百景」「花百景」では、2つの壁面にそれぞれ100点ずつ、空と花を写したモノクローム写真が並ぶ。「空と花に目がいくことは老いていくことの特典。やっぱり私も老けていっているわけ。この境地に行かされちゃう。でも私はまだそっちに行きたくない」。
「写狂老人A日記 2017.7.7」は687点もの写真で構成されている写真日記だ。これらは一見、ごく普通のストレートフォトのように見える。しかし、すべての写真の日付は2017年7月7日。車の窓から撮ったものだというこのシリーズについて、荒木はこう語った。「7月7日は結婚記念日だし、(荒木と陽子は)7歳違いだし、別れても7月7日に会おうぜ。会ってセックスしようぜっていう約束の日なの」。亡き妻・陽子との強い結びつきや愛情を感じさせる写真群だ。
本展では新作だけでなく、荒木の原点とも言える作品を見ることもできる。《八百屋のおじさん》は、荒木が60年代(電通社員時代)に銀座の裏通りで野菜の行商人を写したものであり、制作から50年以上を経て、初めて公開。銀座の画材店「月光荘」で購入したスケッチブックに写真を貼り付けた貴重なオリジナルとともに、その複写から制作されたレプリカとスライドショーを楽しむことができる。
このほか、遊郭から逃げる遊女を女衒(ぜげん、人買の一種)の荒木が捕えるという設定のもと撮影された荒木のアイコン的作品「遊園の女」や、プリントした作品をハサミで切ってコラージュした「切実」など、多様を極めるアラーキーワールドがそこには広がる。
なお、本展はすべての新作が印画紙プリントで展示。インクジェットプリントが主流のいま、荒木の写真に対する強いこだわり、デジタルへの批判精神なども感じとることができる個展だ。「老い」を作品に昇華する荒木経惟の最新形をお見逃しなく。