マルチメディアアーティストで映像作家としても知られるスプツニ子!(Sputniko!)。その個展「Can I Believe in a Fortunate Tomorrow? ー幸せな明日を信じてもよい?ー」が、東京・天王洲のKOTARO NUKAGA(天王洲)で開催される。会期は11月2日〜2025年1月25日。
スプツニ子!(Sputniko!)は東京生まれ。インペリアル・カレッジ・ロンドン卒業。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術学院)修了。 現在も東京を拠点に活動している。バイオテクノロジー、ジェンダー・パフォーマンス、異なる生体間のコミュニケーションといった幅広いテーマを取り扱う作家として知られ、2013年〜17年にでマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教として Design Fiction Group を主宰。現在は、東京藝術大学准教授を務めている。
これまでニューヨーク近代美術館やポンピドゥー・センター・メス、ヴィクトリア&アルバート博物館、クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館、森美術館などで作品を展示。ヴィクトリア&アルバート博物館、金沢21世紀美術館、横浜美術館、M+に作品が収蔵されている。
本展は、未発表の新作を含む3シリーズの作品で構成されるもの。
《Drone in Search for a Four-Leaf Clover》は、群生するクローバーの上をドローンがゆっくりと飛行する映像をAIが解析し、「幸せの象徴」とされてきた四つ葉のクローバーを見つけ出すという作品。昨年、金沢21世紀美術館で開催された「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)―次のインターフェースへ」展で展示され、現在はロンドンの「ルーメン・プライズ」にもノミネートされている。テクノロジーによって大量に発見できるようになった四つ葉のクローバーは、それは果たして本当に「幸せの象徴」と言えるのか? 科学の進歩がもたらすものを問いかける作品だ。
《Can I Believe in a Fortunate Tomorrow?》は「彩雲」=太陽近くの雲が虹のように七色を帯びて見える現象を、AIによってシミュレートした映像作品。雲の中の水や氷の粒で光が屈折・散乱することで雲が七色に輝く「彩雲」は、古来「吉兆」と信じられてきた。本作では、流れる雲の映像をAIに画像解析させ、虹色の輝きを合成することで、「彩雲」がシミュレートされる。映し出される映像は「彩雲」そのものだが、実際はAIによるシミュレーションというある種のフェイク映像とも言える存在であり、テクノロジーが示す未来の両義性を暗示する。
2つのモニターに様々な人類の課題について議論をしつづける2人の男性の姿を映し出す《Tech Bro Debates Humanity》。この2人は、アーティストであるスプツニ子!の容姿や声音を生成AIモデルによって「白人男性」化し、さらにイーロン・マスクやピーター・ティールなどのいわゆる「Tech Bro」的思考を憑依させたアバター(コミュニケーションを行う分身・キャラクター)だという。議論の内容も、すべてAIによって生成されている。
スプツニ子!は本展に際し、以下のステートメントを寄せている。
2000年代から2010年代にかけて、インターネットやソーシャルメディアの発展によって思い描かれたユートピア。しかし、2020年代になると、そのユートピアは瞬く間に、誤情報の拡散、不平等の深刻化、そしてそれらに伴う社会の分断といった冷厳な現実へと姿を変えました。この目に見える分断や漠然とした不安は、私の心に重くのしかかっています。11月上旬に実施されるアメリカ大統領選挙は、こうした分断の現状を鮮明に反映しており、私たちは、テクノロジーがもたらすはずだった「幸せ」や「希望」が今どこにあるのか、再考する必要に迫られています。効率性や利便性は、本当に私たちの幸せに繋がっているのか?テクノロジーは、私たちを解放するのか、それとも新たな束縛となるのか?私たちは、まだ未来を信じることができるのか?本展を通じて、こうした問いを皆さんとともに考えていければと思います。(プレスリリースより)