アーティスト、建築家、科学者など、領域横断的なアプローチからテクノロジーと人類との関係を探る「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」展が金沢21世紀美術館で開幕した。会期は2024年3月17日まで。企画者は長谷川祐子(同館館長)、髙木遊、原田美緒、杭亦舒、本橋仁の5名。
本展は、AI、メタバース、ビッグデータなど、現代においてもっとも注目すべきテクノロジーにアートの視点から焦点を当てるもの。全8章からなる会場には、これらのテクノロジーがどのように進化し、我々の生活や感性にどのような影響を与えるかを予見するような作品が展示されている。13ヶ国23組のアーティストらによる作品が並ぶなかから、とくに気になったプロジェクトをかいつまんで紹介したい。
デザイナー・森永邦彦によって2003年に設立されたファッションブランド「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は、2020〜22年のコロナ禍に発表した4つのコレクションを展示。複数のトルソーに掛けられる衣服と透過性のあるスクリーンに映像がマッピングされ、デジタルとファッションの関係性や境界を問うアプローチを行なっている。アンリアレイジによる展示は2024年1月8日まで。13日からは同じくファッションブランド「ハトラ」と展示替えとなる。
ビョークやK-POPアーティストなどに作品を提供しているウィッグ・アーティストの河野富弘は、人間の「変身する欲望」を叶えるためのツールとしてその表現を拡張してきた。
本展では20年に発表したウィッグを装着できるAR作品をアップデートし、展示している。実物も展示されており、その繊細なつくりと生き物のように自由な形状は、既存のウィッグの価値観を超える力があるだろう。
音声入力されたワードをもとに3Dデータを作成し、会場内の木材加工機「Shopbot」を使用して現実に生み出すといったプロジェクトを提示するのはスタートアップ企業VUILDだ。「建築の民主化」を目指すこの取り組みは、誰もがつくり手になれることを想定し、開発されているものだ。
職人の技術は一般の人々からすれば手が出せない領域であったが、このような人と技術をつなぐメディアが生まれることで、より自由なアウトプットを誘発する機会が生まれるだろう。
2016年から開発が始まり、今年の8月まで日本科学未来館でも展示されていたヒューマノイドロボット「オルタ(Alter)」。本展で紹介されているのは、その3号機だ。東京大学池上高志研究室はこのオルタ3に巨大な言語モデル「GPT4」を搭載。言語のみならず動きも学習し、さらに対話や共感もできるような設計となっている。会場ではマイクが設置され、オルタ3と会話ができるとともに、鑑賞者とのやり取りを通じて毎日成長していくオルタを観察することもできるだろう。展示終了時までにオルタ3がどれだけの成長をしているのか、気になるところだ。
ミュージアムショップ脇に設置された不思議な自動販売機は、松田将英によるプロジェクトだ。なかにはSNSにおける「認証マーク」バッジが並んでおり、1000円で誰でも購入できるかたちとなっている。デジタル社会において、自身の身体に認証マークを与えることで、その価値をユーモラスに問いかけるものだ。なお、100分の1の確率で金沢箔が施された特別な金色バッジが当たるため、ぜひ試してみてほしい。
オーストリアを拠点に活動するジョナサン・ザワダは、「デジタル経験から得た感覚」をテーマに様々なアプローチを行うアーティストだ。本展で展示されている《犠牲、永続の行為》(2023)は、絵画や彫刻に加えて、様々なコンピューターシステムの要素を内包したマルチメディア・インスタレーション。記憶や回想に関わる3つのヒト染色体情報をもとに地層が描かれた絵画をウェブカメラが読み込むことで、機械学習を通じてテキストや音声データへと変換されるといった、多視点的な作品だ。
さらに、作品内で数多くの情報を処理する際に発生する機械の熱が、吊るされたワックスを溶かし、現実の世界でも新たな地層をつくる。デジタルと現実空間をつなぐ媒介として機能している点が興味深い。
ほかにも本展では「ラディカル・ベタゴジー(新しい教育学)」と称し、スプツニ子!による《幸せの四葉のクローバーを探すドローン》や、草野絵美による画像生成AIを用いていままでのストリートファッションの歴史や人々の記憶をもとに新たな在り方を創造する《Morphing Memory of Neural Fad》など、「未来を生き抜くための斬新な教育学」を提示する11のプログラムを紹介している。
開幕に際し、本展を企画した館長・長谷川は次のように語った。「DXというと、いまはビジネスライクに使用されるケースが多いが、元々はデジタルを活用し発展したポジティブな未来を指す。そのような意味合いから、本展では我々の生活や未来がデジタルと共存することでどのような豊かさがあるのかを検証する温度のあるものである。参加した4名のキュレーターの平均年齢は30代で、各世代の目線からリアルな温度感をキュレーションに反映している。デジタルというと映像作品のイメージが強いかもしれないが、新たなマテリアリティ、新しいメディアの発展の仕方を本展では提起する。人間の未来において、デジタルはネイバーであり、伴侶として歩んでくれるものだろう。新たなデジタルとの付き合い方を提示する、メディアテクノロジーのプラットフォームとして本展をとらえてほしい」。
なお、会期中には渋谷慶一郎+池上高志によるオルタ3とオルタ4を用いたプログラム「IDEA─2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話」(10月13日、14日)も開催される。アンドロイドによる議論の展開を、ぜひ目の当たりにしてほしい。