今週末に見たい展覧会ベスト12。山武市百年後芸術祭、版画の青春、北斎に三島喜美代まで

今週末までに開幕・閉幕する展覧会から、とくに注目したいものをピックアップしてお届け。最新情報は各館公式サイトを参照してほしい。

「山武市百年後芸術祭」展示風景より、SIDE CORE《親近感の起源》

世界初の二人展。「スーラージュと森田子龍」(兵庫県立美術館

展示風景より

 1950年代から直接交流のあった画家のピエール・スーラージュ(1919〜2022)と書家の森田子龍(1912〜1998)の二人展「スーラージュと森田子龍」は兵庫県立美術館で5月19日まで。会場レポートはこちら

 スーラージュはフランス南西部アヴェロン県ロデーズ生まれ。画業の最初期から晩年に至るまで、一貫して抽象を追究した。いっぽうの森田は地元・兵庫県の豊岡市生まれ。世界的に知られる前衛書家の顔のほかに雑誌編集者としても活動し、師・上田桑鳩のもとで1939年頃から『書道芸術』の、戦後の48年からは『書の美』の編集に携わった。50年から60年代にかけて欧米で開催された展覧会に次々と出品され、大きな注目を集めている。

 森田はモノクロームの作品を描く画家たちを「白黒の仲間」と呼んでおり、58年に初来日したスーラージュは、森田らと直接意見を交わしたという。生前親交のあったふたりの巨匠を同時に展覧する世界初の二人展だ。

会期:2024年3月16日〜5月19日
会場:兵庫県立美術館
住所:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
開館時間:10:00〜18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月
料金:一般 1600円 / 大学生 1000円 / 高校生以下無料 / 70歳以上 800円

豊かな環境のなかでアートを楽しむ。「山武市百年後芸術祭」(山武市各所)

展示風景より、橘⽥優⼦(kitta 主宰)《Letter to you》

 千葉県山武市で、千葉県誕生150周年記念事業「山武市百年後芸術祭」が開催されている。会期は5月19日まで。会場レポートはこちら

 千葉県の東部に位置する⼭武市は、内房までつながる下総台地と裾に広がる九⼗九⾥平野で知られる場所である。「山武市百年後芸術祭」では、JR成東駅を起点に様々なアート作品展示と音楽パフォーマンスを展開。いちご、ネギ、⽶、⽇本酒、杉、海など豊かな環境とともに作品を楽しむことができる。

 参加アーティストは、伊藤左千夫、井上修志、梅田哲也、大塚諒平、折原智江、加藤泉、橘田優子(kitta 主宰)、小林清乃、SIDE CORE、塩原有佳、庄司朝美、Zennyan(田井中 善意)、立石従寛、藤生恭平、MANTLE(伊阪柊 + 中村壮志)、光岡幸一、保良雄。

会期:2024年4⽉27⽇〜5⽉19⽇
会場:千葉県⼭武市(JR成東駅周辺エリア、柴原エリア、⼭武市歴史⺠俗資料館エリア、九⼗九⾥浜エリア)
開館時間:10:00〜17:00(⼭武市歴史⺠俗資料館は16:15まで。作品によって公開⽇・公開時間が異なる場合がある) 
休館日:月〜金(⼟⽇祝のみ開催)
料金:⼀般 1000円 / 小学生〜高校生 500円 / ⼩学⽣未満無料 ※千葉県内の⼩中⾼学⽣は無料

創作版画の社会的役割とは。「版画の青春 小野忠重と版画運動」(町田市立国際版画美術館

展示風景より、小野忠重《工場区の人々》(1933)

 町田市立国際版画美術館で、「版画の青春 小野忠重と版画運動 ―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―」が5月19日まで開催されている。会場レポートはこちら

 本展では、「新版画集団」と「造型版画協会」のリーダーであった小野忠重の旧蔵品を中心とした約300点の作品によって、これらのグループによる版画運動の諸相を探る。

 また、激動の1930〜40年代という時代に版画に熱中した青年たちが、如何にこの時代を超えようとしたかを考える。本展は、明治の終わりに登場し、まだ30年にも満たなかった創作版画の、いわば「青春期」を振り返る機会にもなるだろう。

会期:2024年3月16日~5月19日
会場:町田市立国際版画美術館
住所:東京都町田市原町田4-28-1
電話番号:042-726-2771
開館時間:10:00~17:00(土日祝~17:30)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月
料金:一般 900円 / 大学・高校生 450円 / 中学生以下無料

北斎を現代の技術で解剖。北斎「冨嶽三十六景」Digital Remix(MOA美術館

葛飾北斎 凱風快晴 冨嶽三十六景

 静岡・熱海のMOA美術館で葛飾北斎の作品を高精細デジタル画像として撮影し、同館スタッフの技術により、オリジナル・フィルム・プロジェクションとしてリミックス(再構成)する展覧会が5月21日まで開催されている。

 葛飾北斎の「冨嶽三十六景」は、富士の威容を示すほか、富士周辺の様々な場所で、生き生きと働く庶民の姿を描いた風景版画シリーズの金字塔だ。その独創的な構図は、クロード・モネやポール・セザンヌの作品にインスピレーションをもたらすなど、世界的な影響の大きさが知られている。

 本展では作品が描かれた地点の現在の風景を撮影・展示し、再構成による新たな魅力を発信する。刊行から190年を経過してもなお色褪せない「富嶽三十六景」の魅力を、デジタル・リミックスによる新感覚で提示する。

会期:2024年4月19日~5月21日
会場:MOA美術館
住所:静岡県熱海市桃山町26-2
電話:0557-84-2511
開館時間:9:30~16:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:木(祝休日の場合は開館)

ミクロとマクロで考える吉原。「大吉原展」(東京藝術大学大学美術館

展示風景より、辻村寿三郎・三浦宏・服部一郎《江戸風俗人形》(1981)

 東京・上野の東京藝術大学大学美術館で開催されている、江戸幕府公認の遊廓であった吉原や、そこで育まれてきた文化にフォーカスする「大吉原展」は5月19日まで。会場レポートはこちら。

 会場は大きく分けて4つの展示室で構成されている。1階展示室の第1部では吉原の概要を、同フロア第2部では風俗画や美人画から約350年にわたって続いてきた吉原の歴史が紹介されている。

 絵画・浮世絵などの平面作品から工芸、文学、写真、人形、街並みの再現といったものが紹介されており、それらを通じて吉原の遊女たちの生き方や、人々からどのような眼差しを向けられていたのかといった、吉原を取り巻く個々の人生から大きな歴史までを、ミクロとマクロの視点で提示している。

会期:2024年3月26日~5月19日
会場:東京藝術大学大学美術館
住所:東京都台東区上野公園12-8
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月
料金:一般 2000円 / 高大生 1200円

ここから始まる《混合図》。会田誠 新作絵画展「《混浴図》への道」(Gallery & Restaurant 舞台裏)

展示風景より

 会田誠による、一風変わった個展「《混浴図》への道」は、麻布台ヒルズにあるGallery & Restaurant 舞台裏で5月19日まで。会場レポートはこちら

 本展で披露されるのはすべて新作。しかしこれらは本画ではない。本展には、数年後に完成する予定の縦218×横999センチに及ぶ大作《混浴図》の練習として描かれたものが並ぶ。展覧会タイトルの通り、「《混浴図》への道」だ。

 作品に描かれるのは広大な露天風呂。そこに、会田オリジナルのキャラクターも含め、日本的な記号としての手拭いや日本酒、猿やカッパ、あるいは古典絵画や報道写真資料からの引用、無機物の擬人化など、じつに様々(混合)だ。会田はその存在の善悪を問わず、森羅万象の多種多様な存在を、親鸞を中心に「直感的に」かき集めたという。

会期:2024年4月20日〜5月19日
会場:Gallery & Restaurant 舞台裏
住所:東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA B1F
開館時間:ギャラリー11:00〜20:00(火〜日) 
休館日:月 ※祝日の場合は翌日
料金:無料
主催:ArtSticker (運営元:The Chain Museum)
協力:ミヅマアートギャラリー

創作の軌跡を総覧。「三島喜美代―未来への記憶」(練馬区立美術館

 練馬区立美術館で「三島喜美代―未来への記憶」が開催される。会期は5月19日~7月7日。

 三島喜美代(1932〜)は、絵画を出発点に現代美術家としての活動を1950年代にスタート。60年代には新聞や雑誌などの印刷物をコラージュした作品やシルクスクリーンをもちいた平面作品を制作していた。70年代に入ると表現媒体を一転し、シルクスクリーンで印刷物を陶に転写して焼成する立体作品「割れる印刷物」を手がけ、大きな注目を集めた。日々発行され、膨大な情報をもつ印刷物と、硬く安定しているかに見えながら、割れやすい陶という素材を組みあわせることで、氾濫する情報に埋没する恐怖感や不安感が表現された。

 本展は、70年にわたる三島の創作の軌跡を、主要作品を通して概観するもの。大量消費社会や情報化社会へ厳しい視線を投げかけつつも、情報やゴミを異化作用を通して造形表現へと転化させた三島作品は、日々の暮らしのなかから遊び心をもって生み出されてきた。会場では、初期のコラージュ作品から「割れる印刷物」のオブジェの数々、環境に配慮した素材による近作などが並ぶ。

会期:2024年5月19日~7月7日
会場:練馬区立美術館
住所:東京都練馬区貫井1-36-16
電話:03-3577-1821
開館時間:10:00~18:00
休館日:月(祝日の場合は翌平)
観覧料:一般 1000円 / 高校・大学生および65~74歳 800円 / 中学生以下および75歳以上 無料

パレスチナと向き合う。「If I must die, you must live 私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない」(ワコウ・ワークス・オブ・アート

ヘンク・フィシュ 私は何を知っているのか?(モンテーニュ) 2023 ブロンズ 高さ27cm
© Henk Visch, courtesy WAKO WORKS OF ART 撮影=ヘンク・フィシュ

 東京・六本木のワコウ・ワークス・オブ・アートが、オランダ出身の作家ヘンク・フィシュのキュレーションにより、パレスチナ出身の詩人や画家の作品にフォーカスした展覧会「If I must die, you must live 私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない」を開催している。会期は6月29日まで。

 本展タイトルは、パレスチナの詩人リフアト・アルアライール(1979年生まれ)が最後にSNSに投稿した詩の冒頭部分。アルアライールはこの詩を投稿した翌月、イスラエル軍の空爆によって死亡した。本展では、このアルアライールが最後に残した詩が、全体を通底するメッセージとなるという。

 会場で紹介されるのは、フィッシュの新作を含む彫刻作品やドローイングのほか、ムスアブ・アブートーハ(1992年生まれ)の詩、画家スライマーン・マンスール(1947年生まれ)の版画、ガザのためにアーティストたちが制作したポスター(Posters for Gaza)など。また長年フィシュと親交があり、今回の企画の意図に賛同した奈良美智(1959年生まれ)の新作も展示される。

会期:2024年5月17日〜6月29日
会場:ワコウ・ワークス・オブ・アート
住所:東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル3F
開館時間:12:00〜18:00 
休館日:日月祝
料金:無料

日本の優れたデザインをつなぐ。「DESIGN MUSEUM JAPAN展2024」(国立新美術館

展示風景より

 東京・六本木の国立新美術館で、日本各地に存在する優れた「デザインの宝」を発掘し、ネットワークを試みる展覧会「DESIGN MUSEUM JAPAN展2024~集めてつなごう 日本のデザイン~」がスタートした。会期は5月26日までの10日間。会場レポートはこちら

 今年の参加クリエイターと選定地域は、竹谷隆之(造形作家、北海道)、小池一子(クリエイティブディレクター、秋田)、名久井直子(ブックデザイナー、山形)、片岡真実(キュレーター/森美術館館長、愛知)、永山祐子(建築家、滋賀)、永積崇(音楽家、愛媛)。

 会場では、今回の参加クリエイターらと日本各地で探したデザインの宝が紹介されている。例えば、愛知県出身の片岡真実は常滑市に足を運び、旧帝国ホテルに使用された「すだれレンガ」や、ケーブルなどを土中で保護する電らん管を用いてつくられた「電らん管ハウス」(1955年頃竣工)に着目した。電らん管は通常人目に触れるものではないが、実物を見るとその美しい設計に驚くばかりだ。

会期:2024年5月16日~26日
会場:国立新美術館 展示室3B
住所:東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00~18:00(初日は14:00~、金~20:00)※入場は閉館の30分前まで
休館日:5月21日
料金:無料

離島のアート企画。アートサイト神津島2024(神津島)

神津島 写真=山口梓沙

 東京から約180キロメートル、伊豆諸島のほぼ中心にある離島・神津島。この離島を巡るアート企画として、「アートサイト神津島2024」が開催中。

 同企画は、アーティストが身体表現や演奏などを行う、ツアー・パフォーマンスを展開するもの。都会から離れ、「漂流」や「自然の脅威と雄大さ」を意識しながら、アーティストが観客とともに独自の鑑賞体験や時間をつくりあげることで、人々の身体を研ぎ澄ますことを目指している。

 出演アーティストは青柳菜摘/だつお、上村なおか、宇佐美奈緒、遠藤薫、オル太、角村悠野、カニエ・ナハ、清原惟、小林萌、contact Gonzo、千日前青空ダンス倶楽部、環ROY、テニスコーツ、花形槙、嶺川貴子、山田亮太、U-zhaan。

日程:[Aプログラム]2024年5月18日、19日、20日
[Bプログラム]2024年5月24日、25日、26日
場所:神津島村内各所

俯瞰で見る日本の姿。「Beautiful Japan 吉田初三郎の世界」(府中市美術館

吉田初三郎 肉筆画 富士身延鉄道沿線名所鳥瞰図(部分) 1928 堺市博物館蔵

 府中市美術館で「Beautiful Japan 吉田初三郎の世界」が開催される。吉田初三郎は京都生まれ。関西美術院で洋画家・鹿子木孟郎に学ぶ。鉄道沿線の名所案内などで商業美術家として注目され、観光旅行が盛んになる時代の後押しを受けて活躍の場を広げていった。 

 大正から昭和にかけて、空高く飛ぶ鳥や飛行機から見下ろした視点による鳥瞰図のスタイルで数多くの名所案内を描いた吉田初三郎。初三郎は「万人が見て楽みながら解り得べきもの」と語っており、その言葉通り「初三郎式」と呼ばれる鳥瞰図はどれもわかりやすい。

 また初三郎は、実際の地形を正確に表現するものではなく、現実の景観をかさねあわせたうえで、現実には存在しない風景を描いた。それは見る側が見たいと望み、つくる側が見せたいと願う、理想化された風景、Beautiful Japanの姿と言える。本展では10点以上の大型肉筆鳥瞰図をはじめ、ポスターや絵葉書、さらには絵画作品などを通じて、吉田初三郎の世界の魅力に迫る。

会期:2024年5月18日~7月7日
会場:府中市美術館
住所:東京都府中市浅間町1-3(都立府中の森公園内)
電話:050-5541-8600
開館時間:10:00~17:00
休館日:月
観覧料:一般 800円 / 高校生・大学生 400円 / 小・中学生 200円 / 未就学児 無料

暴力に対峙する美術のあり方。「ゲバルト」展(東京日仏学院ほか)

 制度の暴力のなかで特定の芸術形態がどのように発展していくのかを示そうとする展覧会「ゲバルト」展が、東京日仏学院、CAVE-AYUMI GALLERY、セッションハウスで開催される。会期は5月18日〜6月16日。キュレーターはアレクサンドル・タルバ。

 本展を主宰するのはゲバルト団体(アレクサンドル・タルバ、平居香子、宮内芽依、アントワーヌ・ハルプク、ガーリン)。2023年5月に東京で設立された芸術的・政治的団体であり、キュレーション集団として構想された。積極的参画の芸術実践や革命運動の歴史、アクション・行動・行為、ゲリラ、儀式、暴動、デモ、市民的不服従、共同体などの反乱の現代的な様式を研究するためのプラットフォームとしても機能しており、またプロレタリアの伝統を受け継ぎ、世界中の被抑圧者と連帯し、市場の論理に対抗して、反資本主義的な現代アートのビジョンを擁護。さらに直接行動としての美学や象徴的な武器としての芸術を要求するという。

 本展は、制度の暴力に対する様々な抵抗のかたちを視野に入れたものだ。抵抗の形態として見出された芸術のパフォーマティヴィティや、直接行動で社会に変化をもたらす可能性についての政治的な問いは、上述したような歴史的なアプローチにもとづくという。

会期:2024年5月18日〜6月16日(セッションハウスは6月15日~16日)
会場:東京日仏学院、CAVE-AYUMI GALLERY、セッションハウス
住所:東京都新宿区市谷船河原町15(東京日仏学院)、東京都新宿区矢来町114 高橋ビルB2(CAVE-AYUMI GALLERY)、東京都新宿区矢来町158 伊藤ビル(セッションハウス)
開館時間:東京日仏学院 火~木 9:30~19:30、金日 9:30~17:00、土 9:30~19:00 / CAVE-AYUMI GALLERY 12:00~19:00 / セッションハウス 6月15日 23:00~翌7:30
休館日:5月20日、27日、6月1日、2日、3日、10日
料金:無料

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