2024.1.17

第8回横浜トリエンナーレの見どころが発表。込められたメッセージとは?

「野草:いま、ここで生きてる」をテーマに、今年3月15日より開催される「第8回横浜トリエンナーレ」。1月17日に行われたオンライン記者会見で、その見どころや関連プログラムなどの詳細が発表された。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

1月17日に行われたオンライン記者会見より、左から帆足亜紀、蔵屋美香、リウ・ディン(劉鼎)、片多祐子、米澤陽子
写真提供=横浜トリエンナーレ組織委員会
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 今年3月15日より開催が予定されている「第8回横浜トリエンナーレ」。その見どころや関連プログラムなどの詳細が発表された。

 今年のトリエンナーレは、北京を拠点として国際的に活躍するアーティストとキュレーターのチーム、リウ・ディン(劉鼎)とキャロル・インホワ・ルー(盧迎華)をアーティスティック・ディレクター(AD)に迎え、全体テーマを「野草:いま、ここで生きてる」として開催される。

 横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクターであり横浜美術館館長の蔵屋美香は1月17日に行われたオンライン記者会見で、「これまで10年ほどのあいだ、横浜トリエンナーレは横浜美術館の会場を中心として開催してきた。第8回展では、再び街に広がる大きな横浜トリエンナーレを目指していきたい」と、意気込みを見せる。

1月17日に行われたオンライン記者会見より、中央は蔵屋美香(横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター/横浜美術館館長)
写真提供=横浜トリエンナーレ組織委員会

 今年のトリエンナーレは、2つの柱を中心に構成。ひとつは、ADが手がける同タイトルの国際展「野草:いま、ここで生きてる」。本展をもって3年ぶりにリニューアルオープンする横浜美術館と、港近くの旧第一銀行横浜支店およびBankART KAIKOの3つをメイン会場とし、クイーンズスクエア横浜と元町・中華街連絡通路の無料空間にも作品が展示される。

 もうひとつは、「アートもりもり!」の名称のもと、市内の各拠点が統一テーマ「野草」を踏まえて展開する様々な展示やプログラムだ。「BankART Life7」展や「黄金町バザール2024」、写真家・石内都による「絹の夢−silk threaded memories」展など、多彩なプログラムが予定されている。

 こうした作品展示のほか、今年のトリエンナーレでは子供やファミリー、アートビギナーも安心のプログラムを多数用意し、リニューアルオープンする横浜美術館では、多機能トイレや授乳室を完備し、様々な鑑賞者が利用しやすい鑑賞環境を提供する。これらの取り組みについて、蔵屋は次のように意気込む。「横浜トリエンナーレは、当初から『現代アートの良質の入門編となる』という目標を掲げてきた。今回はこの目標に丁寧に立ち返って、様々な方のアートとの出会いをサポートしていきたい」。

 国際展「野草」には、様々な国や地域から67組のアーティストが参加予定。そのうち新作を発表するアーティストは20組、日本で初めて紹介されるアーティストは30組に及ぶという。

 展覧会タイトル「野草」は、日本にゆかりの深い中国の小説家・魯迅(ろじん)の詩集『野草』(1927年刊行)にちなんだもの。本展では、魯迅が生きた時代を出発点に、1960年代の学生運動や1989年の東西冷戦の終結など、今日の息苦しさを生む原因となり、かつ世界の色々な地域で共鳴して起きた歴史的な出来事をたどる。そして同時に、いまこの時代に対峙し、変化をもたらそうとするアーティストによる様々な作品を紹介する。

 展覧会は7章構成。展示は、現代を生きる私たちの暮らしの現状を描き出す「いま、ここで生きてる(Our Lives)」の章から始まる。そして、制約の多い制度のなかで個人の領域を最大限に広げようとする作家たちの主体的な想像力、働きかけ、行動に注目する「わたしの解放(My Liberation)」と「すべての河(All the Rivers)」の章へと進む。

 続く3つの章「流れと岩(Streams and Rocks)」「鏡との対話(Dialogue with the Mirror)」「密林の火(Fires in the Woods)」では、100年の時間の流れのなかでつながれてきた歴史と作家個人の人生の接点を示す。各々異なる歴史的な条件のなかで、作家たちが自らのアイデンティティを問いながら、たくましく生き抜いていく様子を見て取ることができる。

 最後となる「苦悶の象徴(Symbol of Depression)」の章は、現代の現実を映す序章に呼応するかたちで、近代に対する深い批評を表し、その時代に目覚めた個人の内面世界を示すものになる。

 横浜トリエンナーレ組織委員会キュレーターであり横浜美術館主任学芸員の片多祐子は、本展の序章となる横浜美術館のグランドギャラリーでは、参加作家たちのインスタレーションによって「キャンプ場のような空間が生み出される」としており、次のように話している。「キャンプは、平和な日常においてはレジャーやレクリエーションの活動という意味があるいっぽうで、災害や戦争などの危機的な状況においては、仮設のシルターにもなり得る。こうしたキャンプの二面性は、非難や亡命、戦争や災害といった非常事態が、じつは私たちの日常と表裏一体の関係にあって、誰にでも起こり得る状況であるということを示してもいる」。

 また、このグランドギャラリーの中央には10組のアーティストや思想家、社会活動家たちが2000年以降に書いた『日々を生きるための手引集(Directory of Life)』を読むことのできるコーナーも設置。これらのテキストに紹介されている実践やアイデアが、来場者に生きるヒントを与えることを目指しているという。

 「アーティスティック・ディレクターの『国や地域を超えて人と人としていかに友情を築き、ともに生き抜くことができるか』という真摯なメッセージ、そしてそれに共鳴するアート拠点の企画をどれだけ多くの人に届けることができるか、この工夫を凝らすことが私たち組織委員会の役目だ」と話す総合ディレクターの蔵屋。今年のトリエンナーレに対して次のような期待を寄せている。「国際的な視点と地に足をつけて日々を生きるなかでアートを考えてきた視点の二つをもって、国際性と地域性の側面からたくさんの方々にアートを楽しんでいただきたい」。