公募展や企画展、海外派遣などを通じてアーティストを段階的、 継続的に支援し、その活動を紹介するプログラムを実施してきたトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)。
2018年度より開始したシリーズ「ACT」(Artists Contemporary TOKAS)では、TOKASのプログラムに参加経験のあるアーティストを中心に、いま注目すべき活動を行っているアーティストを企画展で紹介していくというもの。
その第一弾「霞はじめてたなびく」が3月24日まで開催中だ。
古代中国で考え出された季節を表す方法のひとつ、「七十二候(しちじゅうにこう)」。本展がスタートした2月下旬は、七十二候で「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」と呼ばれている。 それは、冷たく乾燥していた空気がしだいに潤みを組み、その空気が浮遊するちりなどと結合し、光に変化を与え、遠くに見える景色を霞ませることに由来する。
本展で紹介する佐藤雅晴、西村有、吉開菜央の3名は、そのようなささやかな日常の変化を身体で敏感に感じとり、レイヤーを重ね、いままで見えていなかった風景を展示空間に浮かび上がらせるアーティストたちだ。
佐藤雅晴は1973年大分県生まれ。東京藝術大学大学院美術科絵画専攻修了。2000年から2002年にかけ、国立デュッセルドルフクンストアカデミー研究生として在籍した。
実際の風景を映像に撮り、1コマずつパソコン上でトレースし、アニメーションを制作するという丁寧な作業スタイルによる作品で知られる佐藤。本展では、東京の変わりゆく景色を描いた《東京尾行》(2015-16)に続き、福島の日常を描いた新作の映像インスタレーション《福島尾行》(2018)を発表している。
現在、癌闘病中の佐藤。本作は、震災後、旅で訪れた福島の風景を癌に侵されていく自身の身体と重ね合わせるように取り込み、一部をアニメーション化することで、日常と非日常の境界を曖昧にし、鑑賞者を映像の中の旅へと誘う。
本展で新作ペインティングを発表する西村有は1982年神奈川県生まれ、多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。じっさいの風景を再現するのではなく、作家自身の日常的な気づきを重ねて「いま」を描く。西村が手がける、どこかで見たことのあるような風景や人物、あるいは物語のワンシーンを思わせるような絵画は、空間に展示されることで隣り合うそれぞれの作品との間に、自然と物語が生まれるように構成される。
本展では、展覧会タイトルに呼応した作品を発表。作品を見た人が、そこから新たな物語を紡ぎ出すような展示になっている。
いっぽう、映画制作に加え、米津玄師のミュージックビデオ『Lemon』でのダンスをはじめ、振付やミュージックビデオも制作する吉開菜央は1987年山口県生まれ。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業後、東京藝術大学大学院映像研究科修了。身体的に得た感覚を映像と音で表し、新たな映像表現を追求してきた。
吉開が2017年に発表した映画『静坐社』では、大正期に流行した心身修養法のひとつ「岡田式静坐法」を展開していた京都の静坐社で、建物が取り壊される直前に撮影。定められた呼吸と姿勢を保ち、腹に力を込めて静かに座る実践にリンクさせ、身体の動きに伴い生まれる音を丁寧に描き出し、普段気づかなかった風景を表出。本展では、見る者の身体に一体となるような映像インスタレーションを発表している。
注目の作家3名の作品を通して、いままで見えていなかった「風景」を発見してほしい。