地下鉄や都市の壁などに名前を記すエアロゾル・ライティング(グラフィティ)から文字を取り除き、描線のみを抽出した「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」をモチーフとする大山エンリコイサム。
破壊/創造、消滅/生成を等価に受け入れるこの表現では、文字という形態的要素が描写の運動へ変化し、繰り返し描く反復のなかで、次第に意味が削ぎ落とされていく。制作の都度の偶然性と身体性の呼応を、幾度となく繰り返すことで生み出された大山独自の表現だ。
こうして立ち現れる運動力学は、明滅する星々によって深遠さを増す宇宙のように、膨張と伸縮を繰り返す想像的空間をつくり出す。今回、その様子から着想を得た個展「夜光雲」が、横浜市の神奈川県民ホールギャラリーで開催される。
同ギャラリーは、県内最大規模となる1300平米の面積を有する。本展では、平面や立体、サウンド、インスタレーションなど、ギャラリーの特徴的な空間を活用した過去最大級の作品を展開するという。2019年には、ポーラ美術館と中村キース・ヘリング美術館で連続的に個展を開催し、大きな話題を呼んだ大山。本展ではどのようなアプローチを見せるだろうか。