美術館に広がる「Kairosphere」。大山エンリコイサムの個展をポーラ美術館でチェック

独自のモチーフである「クイックターン・ストラクチャー」を用いて作品を展開するアーティスト・大山エンリコイサム。その日本における美術館初個展「Kairosphere」が、箱根のポーラ美術館で開催されている。

展示風景 ©︎Enrico Isamu Ōyama

 印象派コレクションで広く知られる箱根のポーラ美術館。この1階に位置する現代美術のための展示スペース「アトリウム ギャラリー」で、大山エンリコイサムによる個展「Kairosphere」が開催されている。

 大山エンリコイサムは1983年東京都に生まれ、現在はニューヨークを拠点に活動するアーティスト。地下鉄や都市の壁などに描かれたライティング(グラフィティ)の文字や色彩を取り除き、描線のみを抽出した三次元的なモチーフ「クイックターン・ストラクチャー」を用いて制作を続けている。日本では昨年、Takuro Someya Contemporaryでの個展「Black」で新作を発表したことが記憶に新しい。

大山エンリコイサム ©︎Enrico Isamu Ōyama

 そんな大山にとって、日本の美術館で初個展となるのが本展「Kairosphere」だ。「Kairosphere」とは大山による造語。主観的・内的な時間を表す「kairo」と、不可視なものを含みこむ圏域としての「sphere」を組み合わせたものだ。大山はこの意味についてこう語る。「作品は一つひとつ個別のものとして存在していますが、制作するという行為は内面的な感覚としては連続しています。15年かいて(描いて、書いて)きたなかでターニングポイントになってきたものを並べることで生まれる空間が『Kairosphere』です」。

展示風景より、手前は《FFIGURATI #9》(2009) ©︎Enrico Isamu Ōyama

 つまり「Kairosphere」とは、作品の集合が形成するひとつの時空間(これを大山はステイトメントの中で「作品圏」と書いている)を示すものなのだ。本展で作品は、アリウム ギャラリーの中だけでなく、ロビーや大理石の壁にまではみ出しており、作品が緩やかにアリウム ギャラリーとロビーとを繋いでいる。

展示風景より、左から《FFIGURATI #207》(2018)、《FFIGURATI #245》(2019) ©︎Enrico Isamu Ōyama
展示風景より、《FFIGURATI #207》(2018) ©︎Enrico Isamu Ōyama

 本展では、大山が「スタジオで描ける最大サイズの作品」と話す横幅9メートルもの大作《FFIGURATI #207》(2018)が目を引くが、他の作品・資料との連続性にこそ注目したい。

 会場には、大山が高校卒業時にプロポーザル(申請)を通して校内のコンクリート壁に制作した絵画作品《慶應義塾志木高等学校 壁画》(2003)の関連資料や、高校〜大学時代に制作したドローイングをまとめたスケッチブック、さらに2009年の修了制作展で制作したアクリルボックスを使った《FFIGURATI #9》(2009)などを展示。大山の「クイックターン・ストラクチャー」形成と発展の歴史を垣間見ることができる。

《慶應義塾志木高等学校 壁画》の10分の1スケールモデルと、現在の様子を映した映像 ©︎Enrico Isamu Ōyama
スケッチブックにはすでに「クイックターン・ストラクチャー」が見られる ©︎Enrico Isamu Ōyama

 「『クイックターン・ストラクチャー』はスケールフリー。スケールも横断するものとして今後の展開を考えていきたい」と語る大山。そのこれまでといまを、ポーラ美術館で目にしてほしい。

編集部

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