『炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷』
日本の石炭産業を支えてきた炭鉱は、様々な文化を派生させたという意味でも近代を再検証するための重要な遺産である。山本作兵衛の炭坑記録画をはじめ、炭鉱を主題とする視覚芸術や文学、産炭地で興った様々なサークル活動のほか、1990年代以降のアートプロジェクトでも旧産炭地の歴史的文脈を視野に入れた実践が展開されている。自身も美術家として炭鉱の歴史文化をテーマとした制作を行っている著者が、炭鉱にまつわる多様な芸術文化活動を精査。近代文化を現在にまで連なる視点でとらえる貴重な研究。(中島)
『炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷』
國盛麻衣佳=著
九州大学出版会|6000円+税
『カドミウム・イエローの窓 あるいは絵画の下層 叢書《言語の政治》22』
ユベール・ダミッシュはルネサンスから同時代芸術まで幅広い領域を扱う美術理論家。日本ではこれまで『雲の理論』などが紹介されている。本書はモンドリアンなど20世紀の芸術家を主に扱う論集。「絵画独自の思考とは何か」が本書の中心にある問いだ。私たちは絵画を概念に還元しがちだが、何かに還元可能であれば絵を描く必要はない。ダミッシュは、還元的な手法に抗しつつ、絵画上の要素がそれぞれの芸術家の実践のなかで果たす役割をひもとく。文章は時に難解だが、それは、彼自身が絵画について書くことの困難に直面しているからにほかならない。(岡)
『カドミウム・イエローの窓 あるいは絵画の下層 叢書《言語の政治》22』
ユベール・ダミッシュ=著
松浦寿夫ほか=訳
水声社|4000円+税
『ストリートアートの素顔 ニューヨーク・ライティング文化』
ストリート・アート、とりわけライティング文化の紹介と実作で知られる著者の『アゲインスト・リテラシー』に続く単著。12人のアーティストの伝記的事実を描きつつ、各作家の作品を図像的に解明するアプローチは著者独自のもの。著者自身によるインタビューや先行する広範な文献をもとにすることで、多様な文化的文脈のなかにストリート・アートを位置づけようとする意欲的な一冊でありながら、語り口は平明でアクセスしやすい。著者が述べる通り、今後ストリート・アートについて探究する人々の「土台」となるだろう。(岡)
『ストリートアートの素顔 ニューヨーク・ライティング文化』
大山エンリコイサム=著
青土社|2600円+税
(『美術手帖』2020年2月号「BOOK」より)