過去や記憶を背負って「後ろむきに前に歩く」。山口啓介の3年ぶりとなる大規模個展が広島市現代美術館で開催
原子力発電所や環境問題など生命的なモチーフを扱い、銅版画や絵画、立体など様々な形態で作品を発表してきた山口啓介。その約3年ぶりとなる回顧展「後ろむきに前に歩く」が、広島市現代美術館で開催される。会期は6月8日〜9月4日。
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山口啓介は1962年兵庫県生まれ。85年に武蔵野美術大学を卒業後、方舟を描いた大型の銅版画作品でデビュー。以降、版画の分野で様々な賞を受賞し、近年は花や種子、心臓、人体などモチーフを変化させながら絵画や立体作品も多く手がけている。主な個展に「原―ききとり 歩く方舟、海を渡る星図、震災後ノート」(いわき市立美術館、2015)、「山口啓介―カナリア」(豊田市美術館、2015)などがある。
本展「後ろむきに前に歩く」は、山口にとって約3年ぶりとなる回顧展。重なる顔をモチーフとした新作の大型絵画3点を含む約120点の作品で、作家の歩みをたどる内容となっている。
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まず本展では、墓や船をモチーフとした初期の大型銅版画を中心に紹介。原子力発電所とプルトニウム輸送船、広島に原子爆弾を投下したアメリカの軍用機エノラ・ゲイのイメージが混ざり合う《Calder Hall Ship- ENOLA GAY》も見ることができる。
加えて、ゲーテが唱えた「原植物」の思想や解剖学者・三木成夫の影響を受けて制作された、花や植物を描いた絵画や銅版画のほか、植物と樹脂をカセットテープのケースに封入して積み重ねる《カセットプラント》が展示。人体や顔をモチーフとした近作には、不穏さと凛々しさを兼ね備えた新たなイメージが浮かび上がる。
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また、東日本大震災が起きた3日後の2011年3月14日から現在まで、山口が日々書き続けている《震災後ノート》も展示。本展では「人は未来を見ることはできず、見えるのは過去か、今という瞬間だけだから、後ろむきに前に進んでいるようなものだ」と語る山口の姿勢から、記憶や過去を背負って歩き続けるための術を探ることを目指す。