1988年にエイズと診断され、その2年後に31歳という若さでその短い人生を終えた、キース・ヘリング。アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアなどと同様に、80年代のアメリカ美術を代表するアーティストとして、その名前はいまなお美術史に燦然と輝いている。
キース・ヘリング生誕60年にあたる本年、その活動を概観する特別展「Pop, Music & Street キース・ヘリングが愛した街 表参道」が東京・表参道ヒルズでスタートする。
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本展は「Pop」「Music」「Street」の3部構成。山梨の中村キース・ヘリング美術館が所蔵するオリジナル・ポスターをはじめ、ハウスミュージックやパンクロックのレコード・カバーなど、約70点が東京で初めて展示されている。
キース・ヘリングがポスターで伝えようとしたもの
会場エントランスは、中村キース・へリング美術館の「闇の空間へ広がるアプローチ」を彷彿とさせる構成になっており、キース・ヘリングのモノグラムイメージと、LGBTを表す6色のネオンが来場者を迎える。
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本展をキュレーションした中村キース・ヘリング美術館の顧問・梁瀬薫によると、キース・ヘリングは「20代半ばから自らの死を感じていた」という。
残された短い人生で、世界の人々に自らのアートをわかってもらうため、ポスターなどの商業アートを利用したキース・へリング。本展では、ポスターとしては最初のコミッション・ワークである83年のモントルー・ジャズフェスティバルのポスターをはじめ、最初のクライアント・ワークである《Absolut Vodka》(1986)の特大ポスター、自費で2万枚を刷ったという《Free South Africa》(1985)、そして《National Coming Out Day…》(1988)など、約60点を展示。そのなかには、キース・へリングがエイズのリサーチや子ども支援に尽力していた様子を伺える作品も含まれている。
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世界初公開の秘蔵写真
86年にオリジナルグッズを販売する「ポップショップ」をニューヨークに開店させたキース・ヘリングは、88年に東京・青山にもショップをオープンさせ、同年表参道の歩行者天国で路上にチョークでドローイングをする伝説的なパフォーマンスを行った。本展では、その様子をとらえた秘蔵写真約30点が世界で初めて公開されている。
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写真は当時、たまたま雑誌『FOCUS』の取材に同行していた岸田晃によって撮影されたもので、昨年山梨の中村キース・ヘリング美術館へ寄贈された。写真からは歩行者天国の表参道でのびのびとドローイングを描くへキース・リングや、それを囲む人々、そして突然の出来事に駆けつけた警察官までが映されており、当時の様子が生き生きと伝わってくる。
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ショップはアート
本展では、ショップも重要なポイントだ。上述の通り、キースは86年に自身のオリジナルグッズを発売する「ポップショップ」をニューヨークに開店させた。これについて梁瀬は「ポップショップは売ることが目的ではなく、アートとして自分のメッセージを伝えるための活動の一環だった」と話す。
その「ポップショップ」を彷彿とさせる今回のショップでは、86年当時から展開されている「Pop Shop」のロゴがついたオリジナル商品を含む、膨大なキース・ヘリンググッズを販売。とくにオリジナル商品は、実店舗で買えるのが世界中で中村キース・ヘリング美術館と本展だけであり、貴重な機会となっている。
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アートはみんなのもの
会場最後にあるコーナーも見逃せない。88年の来日時、キースが代々木公園近くで即興のライブドローイングを行う様子などをとらえた秘蔵映像も、今回が東京での初展示。若者たちと気さくに交流する様子からはアーティストの人柄も垣間見ることができる。
なお、本展は全作品撮影可能。「アートはみんなのもの」というモットーで活動していたキース・ヘリングの世界を見るだけでなく、撮り、シェアして楽しみたい。
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