ダイ・イン インタビュー:身体から宇宙へ。日本初個展に見る「生成」の思考

ホワイトストーンギャラリーの銀座新館にて、中国出身のアーティスト、ダイ・インの日本初個展「Lines of Infinity」が4月4日まで開催された。身体、エネルギー、そして宇宙的構造の関係性を主題としてきたダイは、本展で「Goddess」「M-Theory」「Flower of Life」の3シリーズを通じて、生成のプロセスそのものを可視化する試みを提示する。個展のために来日した作家に、制作における身体性や素材、さらには「地母マトリクス」という独自の概念について話を聞いた。

聞き手・構成=編集部

ダイ・イン すべての写真提供=ホワイトストーンギャラリー

知覚の場としての東京──日本初個展がひらく対話

──「Lines of Infinity」展は日本での初個展となります。今回、東京で展覧会を開催することにはどのような意味がありますか。

ダイ これは私にとって、日本で自身の制作活動の軌跡を提示する初めての機会になります。私にとって東京は、たんなる「国際都市」ではなく、非常に独自の知覚のあり方を持つ場所だと感じています。それは、高い感受性と抑制を併せ持ち、高度に都市化されているいっぽうで、素材性や細部、リズムに対する持続的な意識を内包しています。このような感覚は、私自身の制作に対するアプローチとも深く共鳴しています。

 私はこれまで、身体、エネルギー、そして宇宙的構造の関係性を継続的に探求してきました。東京という都市の文脈のなかでは、作品におけるより微細な層──例えば、色層間の浸透、反復的な手の動きに刻まれたリズム、あるいは画面内部に生じる張力──が、より明瞭に知覚されると考えています。

 その意味において、この展覧会はたんに地理的な文脈への参入ではなく、むしろ知覚のレベルにおける対話であると捉えています。

──本展では新作が多数発表されていますが、今回の展示全体を通してとくに意識したテーマや構成について教えてください。

ダイ 今回は、近年継続的に取り組んできた3つのシリーズ──「Goddess」「M-Theory」「Flower of Life」を発表しています。これらの作品を通して、私は女性の身体、身体的経験、生命エネルギー、そして宇宙的構造のあいだにある関係について一貫して思考してきました。

Goddess 19 2025 Mixmedia on Chinese xuan paper 195.0 × 195.0 cm

 「Goddess」シリーズでは、主に身体を出発点としています。女性の身体に内在する中軸、開口、包摂、拡張といった要素に注目しているのですが、それらは形象としての再現ではなく、身体構造からの内部構造の抽出です。私は女性の身体を、宇宙的な軸線でありエネルギーの導管として捉えています。画面に表れる楕円形、三角形、螺旋、同心構造、そして色層や素材の重なりは、いずれも身体的経験に由来しています。女性の身体は、欲望と意識が同時に立ち上がる力を内包した、内在的な神性の場として存在していると考えています。

M-Theory 76 2025 Mixmedia on Chinese xuan paper 96.0 × 130.0 cm

 「M-Theory」シリーズでは、女性としての身体的経験をより広い宇宙的想像力へと拡張しています。二重螺旋、軌道、ネットワーク構造は、DNAや天体の運行を想起させるいっぽうで、それ以上に重要なのは、それらが「接続の様態」を形成している点です。個体の経験を、より大きな空間構造のなかへと接続していく役割を担っています。

Flower of Life 8 2026 Chinese painting pigments, Japanese pigments, acrylic, and Chinese xuan paper mounted on canvas 20.0 × 28.5 cm

 いっぽうで「Flower of Life」シリーズは、より静かなレベルへと移行します。それは瞑想的な空間であり、生命の起源を想起させる場でもあります。層状に拡散する構造や、微細な点と色彩の重なりによって、画面は呼吸するかのようにゆっくりと展開していきます。ここでは、構造は外向的な力を強調するのではなく、持続的に生成し続ける生命の場として現れます。

 これら3つのシリーズを貫いているのは、身体がどのようにして入り口となり、より大きな宇宙的生成のロジックと接続しうるのか、という問いです。その過程において、螺旋のような構造は繰り返し現れてきます。それは、異なる文明における母性や再生に関する原型的イメージを指し示すと同時に、私の素材や絵画プロセスのなかで具体化され、知覚可能な視覚秩序として立ち現れていきます。

──日本の美術史や文化のなかで、これまで関心を持ってきた作家や思想、あるいは影響を受けたものはありますか。

ダイ 個人的な経験としては、学生時代に草間彌生の存在に触れたことがあります。しかし、私にとって本質的な影響となったのは、その視覚言語ではなく、特定の歴史的状況のなかで、アジア人女性としてひとりでニューヨークへ渡り、自らの制作の軌道を切り拓いたという彼女の選択でした。既存の制度の外側で自らの道を築くその姿勢は、芸術実践がたんなる表現ではなく、「いかに存在するか」というあり方の決定でもあることを、早い段階で意識させてくれました。

 私は特定の様式や美術史的系譜に依拠するのではなく、むしろ複数の知の体系から継続的に影響を受けています。西洋哲学や東洋思想、様々な宗教文化について長期的に思考を重ねると同時に、身体的な経験や実践的な関与も通してそれらに接してきました。また、人類学、進化論、自然科学、人工知能、宇宙論にも関心を持ち続けています。

 これらの内容はイメージとして直接的に翻訳されるのではなく、構造や生成、そして意識の問題に対する私の理解のなかに徐々に浸透していきます。

 したがって、私の制作は特定の文化や美術史の文脈に基づくものではなく、異なる知の体系のあいだを往還し、それらを接続していくプロセスとして展開されています。その意味において、日本文化は決定的な影響源ではなく、私が触れてきた多様な経験の一部に位置づけられます。

「Lines of Infinity」展の展示風景より

──今回の展示空間を構成するうえで、ホワイトストーンギャラリーの空間や東京という都市環境をどのように意識しましたか。

ダイ 私は展示空間を、展示のための器だけではなく、作品の一部として捉えています。

 ホワイトストーンギャラリーの空間は、非常に明確な秩序性を備えており、その秩序が作品内部のロジックをより直接的に可視化させます。そのためインスタレーションにおいては、作品同士のあいだに生まれる「呼吸」や間隔をとくに重視しています。並列的に配置するのではなく、鑑賞者が空間のなかを移動するにつれ、密度から開放へ、強度から静けさへと移行していくようなリズムを体感できる構成を意識しています。

 また私にとって東京という都市は、より背景的な存在として機能しています。その密度や速度、層状性は、私の画面における構造とも共鳴する部分があります。しかし、都市景観そのものに応答することには関心がありません。むしろ、このように速度と密度の高い都市において、鑑賞の感覚が適切な緊張と弛緩を保ちながら展開されるような、拡張性と強度に根ざした性質を併せ持つ知覚的空間を開くことを目指しています。

編集部

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