「モーメント・スケープ」に込められた意味とは?
──今回のタイトル「モーメント・スケープ」には、どんな意味を込めていますか?
池田 バグスクールのタイトルは、「これってどういう意味なんだろう?」と立ち止まってもらえるような少しヘンテコなものがいいと考えています。今回は「瞬間(Moment)」と「風景(Scape)」を組み合わせた造語にしました。自分たちの「生」や「生活」の在り方を、様々なスケール感でとらえ直すことに焦点を当ててみよう、という意図があります。制作のヒントとしてふたつのキーワード「Pile of Moment(積み重なる瞬間)」「Catch Moment(とらえる瞬間)」をアーティストと共有することも試みました。日々の経験や思考の蓄積が私たちの営みや光景をかたちづくっていることや、また感受性が刺激される瞬間には普段とは異なるものの見方が生まれることなどを意識してほしい、そんな気持ちを込めています。ただし、両キーワードの解釈はアーティストに完全に委ね、さらに一方のみでも両方を行き来するのでもOKとしています。
──そんな方針のもと、どのようなアーティストが参加することとなったのでしょうか?
池田 参加するのは、Aokid、芦川瑞希、 KANOKO TAKAYA、坂本森海、タツルハタヤマ、八木恵梨、吉田勝信の7名です。「Pile of Moment」「Catch Moment」というふたつのキーワードについて、ともに考えていただけそうなアーティストに声をかけていきました。
今回この場には3名のアーティストが集まってくださったので、ご紹介します。 Aokidさんはダンサーとして、パフォーミングアーツの作品に取り組むだけでなく、身体の感覚を起点にドローイングや映像作品も制作しています。さらに、公共空間で緩やかに人を集め、自由に踊ったり語ったりする自主プロジェクトも続けています。
続いて芦川瑞季さんは、出会った風景やそのときに受け取った感覚を起点に、版画作品を制作しています。身近な都市風景や、近年は埋立地をモチーフとされることが多いです。リトグラフ技法を活用し、風景の断片とイラストを組み合わせた作品は不思議とどこか懐かしさを感じさせます。
そして吉田勝信さん。最初はデザイナーとしての仕事に惹かれて調べていたところ、「採集家」と名乗り活動されていると知りました。海や山から採集した素材でインクをつくり、現代社会の産業に実装する発想や、制作においてつねに実験的な姿勢が非常にユニークで、学び場を目指すバグスクールでぜひご一緒したいと思っていたところ、今回実現しました。
──アーティストのみなさんは第3回バグスクールで、どのような作品を披露される予定ですか?
Aokid 先日、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を組み合わせたXR(クロスリアリティ)の作品を制作する機会がありました。その経験とダンスを絡めて、展示を構成できないかと考えています。人はいきなり「踊ってください」と言われても、なかなか踊れないものですよね。では、踊る気分をどうやって生み出すのか。そのきっかけを探るような作品をつくってみたいと思っています。今回はグループ展という枠組みがありますが、そこにオルタナティブな視点を持ち込めたらと考えています。

芦川瑞季(以下、芦川) 2020年頃から、東京のゴミ埋め立て地を取材しています。時間の経過とともにその場所の光景が移り変わっていく様子を、作品としてとらえられたらと思っています。私は主にリトグラフという技法を用いて作品を制作しています。デジタルで絵を描く場合は簡単に修正できますが、リトグラフはいったん描いたものを取り消せないメディアです。人目につかない場所で刻々と変化し続ける景色を、こうした不可逆性の強い描画方法でとらえたら、何かおもしろいことが起こるのではないかと考えました。その挑戦の成果をご覧いただきたいと思います。

吉田勝信(以下、吉田) 私は、19世紀のフランスで活動した発明家ニセフォール・ニエプスに着目しています。彼は写真の発明に関わったことで知られていますが、同時に石版印刷の研究も行っていました。その場にある光をいかに定着・複製するか、そこに彼のアイデアの根源があったのです。複製をつくる際に彼が活用した素材はビチューメン、つまりアスファルトでした。調べてみると、僕が住んでいる山形をはじめ日本海側の地域で天然のアスファルトが産出されることを知り、ならば自分で採集し光の複製を試みることで、ニエプスの研究を継承してみようと考えました。展示にあたっては、光を複製している“そのプロセス”自体を、いかに見せられるかを思案しています。




















