BUGと歩むことで見えた新たな景色。向井ひかりインタビュー【3/3ページ】

名前のない砂粒をすくいあげ、新たな名前をつけるように

── 一見すると社会の何に作用しているのかわからない、どこと噛みあっているのかわかりづらい歯車、みたいなところが芸術にはあるのかもしれません。そういう関わりのないもの同士を想像力によってつなぎあわせていくという性質は、向井さんの作品にも見られるようにも思います。

向井 展覧会タイトルの「ザ・ネイムズ・オン・ザ・ビーチ」は、英語に明るい人にとっては「カップルが砂浜に書いた、ラブラブな2人の名前」というイメージがまず思い浮かぶそうなのですが、様々な意味を込めています。そもそも砂粒というものは、色々な物質が風や水の作用によって細かくなっていった欠片。一つひとつ違う名前を持っていたものたちが、いまは砂粒として同じところに集まっている。その砂粒を私の采配で並べ直したうえで、「この出来事はこういう名前にしようかな」と名付け直しているというのが、私の作品制作に対する感覚としてあります。

 いっぽうで、そうやって並べた砂でつくったものも波にさらわれて、いつかはなくなってしまうように、いまは平らに見えている場所にも、かつては何かが存在していたのかもしれないと想像します。いままであった出来事のなかに、自分がしたこともどんどん埋もれていく。自分の作品だけでなく、いま起きている事件なども、決してなかったことになるわけではないけれど、膨大な時間のなかで相対的に更地になっていくようなイメージです。

──日常でふと目にした景色や身近な物事を、いわば向井さんの視点でシャープに風化させた砂粒をいくつも並べて展覧会をつくっているように感じます。それだからこそ、作品自体は小さかったり薄かったりしていても、風化する以前の確かな存在や、大きな時間の流れを感じさせるのかもしれません。どのようなときに「これは作品にできそう」と思うのでしょうか?

 私自身もわからないんですよね。「作品になる」と思いついた瞬間の記憶というのは、これまでありませんでした。無意識のうちに蓄積してきたもののなかから、何かつくろうかなと思ったときに様々なイメージが結びつきながら浮かんでくる感じで、形や素材、サイズなどとともに作品が生まれます。できた作品を見て、あとから「これは何によって結びついたんだろう?」と推理しながら、分解して色々と考えてみるのですが完全にはわかりません。それは神秘的な「降りてきた」とかではなくて、おそらく作品として結びつけている何かがある。私もそれが知りたくて、つくり続けながら考えています。

 第1回 BUG Art Award グランプリ受賞者個展 向井ひかり「ザ・ネイムズ・オン・ザ・ビーチ」は2月19日〜3月23日の会期で開催。また、第3回BUG Art Awardは、2月26日まで応募を受け付けている。展覧会を楽しむとともに、是非ともアワードへの応募も検討してみてほしい。

編集部

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