CAFAA賞を受賞し、ブルックリンでの滞在研究を経て得たこと。髙橋銑(アーティスト)×斯波雅子(BEAF主催)対談【4/4ページ】

滞在を終えたあとの活動

──ニューヨークでの滞在を終えてからの話を伺えますか。 

髙橋 ニューヨークに行ってから、イギリスに行く機会がありました。とりあえず色々と作品を見ようと思いました。大英博物館やテートなどをベタな場所だと敬遠せず、そうしたところに行くこともすごく大事だというのがニューヨークでよくわかったので。それと、ニューヨークで過ごすうちに気づいたことがあって、最初は日本とどんなところが違うかという尺度で過ごしていたんですが、初めのうちは違いから刺激を受けていても、段々とそこに心が動かなくなってくるんですよ。でも逆に、日本と一緒のことに目を向けていると、自分の日常と共通した輪郭をつかめたうえで、何が違うのかがより明確に見えてくるような感覚がありました。そんな意識をもってイギリスで過ごす時間は面白かったです。 

イギリスの風景 撮影=髙橋銑

──具体的に気づいたことなどはありましたか。

髙橋 イギリスでは土木のことをよく考えていました。現在のイギリスには多分、本当の原生林のような自然はほぼ残っていないと思うんですね。風景を眺めながらそれを感じたのですが、おそらく産業が発展した時代に山を切り崩して、資源として使ったのではないかと。日本もやはり、縄文時代からの流れで、たたら製鉄で山を切り崩しているので、やはり自然と思われている風景の多くが土木の帰結だと思うんです。見たものに対して色々な感度の働かせ方をする、ということを知らない土地で実践する意識は、ニューヨークでの滞在を通して得た根本的なものだと思っています。

──アートに対しての見方にも変化はありましたか。 

髙橋 イギリスのあとに直接日本に帰らず、アムステルダムに立ち寄ったのですが、マリーナ・アブラモヴィッチの個展が開催されていたんですね。ニューヨークで保存修復についてリサーチを続けながら、パフォーマンス作品はどう保存されるのかということにずっと疑問を抱いていたんですね。アブラモヴィッチは自分のアカデミーを持っていて、そこでお弟子さんたちが彼女の手ほどきを受けてひたすらパフォーマンスのトレーニングを続け、お弟子さんたちはアブラモヴィッチのDNAを受け継いで再現しているんです。完全に一緒ではないかもしれないけど、実際にアムステルダムでお弟子さんたちのパフォーマンスを見たときには、やはりアブラモヴィッチの作品を見た感動がありました。

アムステルダム国立美術館、修復を終えたレンブラント《夜警》 撮影=髙橋銑

 パフォーマンスを保存する方法として、自分のDNAがガッツリ入った弟子を残し、アカデミー設立によってその系譜をつくっていくというアブラモヴィッチの方法は、面白いし強固だと感じました。実際にその成果としてのパフォーマンスを目の当たりにして、自分の中の疑問と向き合えたのは、ニューヨークで様々なメディアでの保存修復の現場に触れた経験がすごく影響したと思っています。

──今後の制作活動の展開も楽しみにしています。

髙橋 作品制作において、保存修復に携わってきて得た技術を使うことはよくあります。例えば、本物のニンジンを腐らないように保存する「Cast and Rot」というシリーズの作品があるのですが、作品としてそのニンジンを立てた状態で見せようとすると、何かに据える必要があります。安定して立ってくれないといけないし、その据えるための什器のようなものが目立ってもいけない。それをオブジェとして機能させ、ニンジンと合わせて作品とするのですが、そういうものの制作には保存修復の技術を活用しています。

 保存修復は美術においてとても大切なものですが、鑑賞者にはあまり知られていない分野ですよね。もし自分が作品を通して、美術を鑑賞する文化に保存修復への視点をもたらすことができたら、すごく大きな成果になると思っています。そういうかたちで美術鑑賞史に貢献したいですし、ニューヨークでの滞在経験は反映されると思っています。

編集部

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