「CAFAA賞 2023」のグランプリは髙橋銑。保存と修復を手がかりに作品の存在を思案

現代芸術振興財が不定期に開催してきたプロフェッショナルなアーティストを対象としたアートアワード「CAFAA賞 2023」のグランプリに、近現代彫刻の保存修復に携わりながら自らも作家活動を行ってきた髙橋銑が選ばれた。

「これらの時間についての夢」(宇都宮美術館、2022)展示風景より、《二羽のウサギ》(2020) 撮影=堀蓮太郎

 現代芸術振興財団によるプロフェッショナルなアーティストを対象としたアートアワード「CAFAA賞 2023」のグランプリに、髙橋銑(たかはし・せん)が選ばれた。

  4回目の開催となる「CAFAA賞」には300 件以上の応募があり、書類選考の通過者には対面にてインタビュー形式の最終審査を実施。審査員は、東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーターの野村しのぶ、インディペンデント・キュレーターの吉竹美香、J-Collabo エグゼクティブ・ディレクター兼理事の斯波雅子の3名が務めた。

「CAST AND ROT」(LEESAYA、2021)展示風景 撮影=三嶋一路

 髙橋銑は1992年東京都生まれ。2021年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程を修了。近現代彫刻の保存修復に携わりながらその知識や経験を起点とし、「全人類が共有しうるもの」としての「作品」をテーマに、彫刻、映像、インスタレーションなどを展開してきた。

 主な展覧会に個展「二羽のウサギ / Between two stools」(The 5th Floor、2020)や個展「CAST AND ROT」(LEESAYA、2021)があるほか、「これらの時間についての夢」(宇都宮美術館、2022)や、「リニューアルオープン記念特別展 Before/After」(広島市現代美術館、2023)にも参加してきた。

アポトーシス:シルバーホワイト 2020 撮影=立石従寛

 今回の選出については、修復というバッググラウンドと独自の視点・知覚が評価されたという。以下に、髙橋の制作に対する審査員の評を、それぞれ抜粋して紹介する。

髙橋銑はブロンズ彫刻の修復家でもある。アノニマス(匿名的)な存在と思われがちだが、修復とはその度合いや方向づけが多分に恣意的であることを自覚し、日々目と手で他者の作品を観察し続けることでしか得られない独特の視点、感覚によって制作される作品が光った。 (野村しのぶ)
髙橋銑の制作には私たちが現在直面している日常生活の状況に対する繊細な感受性が反映されていた。日本やアメリカの重要な美術作品の修復を行ってきた貴重な体験を通して、マテリアリティーに対する目に見えない優れた知覚能力を持っていることに驚いた。彼がニューヨークで、修復家と研究を進めながら、繊細な専門知識を新しい表現の次元を制作に活かしていくことを楽しみにしている。(吉竹美香)
第一弾アーティストの選出にはNYならではの出会いと体験を活かせる事を重視した。髙橋銑は修復師としての視点から、リサーチと制作を組み合わせた活動が非常にユニークで興味深い作家で、彼がNYで様々なアート機関やカテゴリーの作品に触れることで創作に豊かさがもたらされることを期待し、初めての米国滞在により、今後の作家活動に予期せぬ変化が生まれることを楽しみにしている。(斯波雅子)
髙橋銑

 いっぽう、髙橋は受賞を受け、次のようなコメントを寄せている。

これまで日本国内での活動に力を注いできた私は、コロナによる人々の移動の制限が徐々に緩められていくことを受けて、海外に活動の幅を広げられるきっかけとなる出来事はつくれないかと気を揉んでいました。そのようなタイミングでこのCAFAA賞を頂けたことに大きな喜びを感じています。NY滞在では事務局の皆様とつくり上げていくプログラムと向き合いつつも、現地で出会うであろう多くの人々との関わりのなかで得られる物をまず大切にしていこうと思います。このような貴重な機会を頂けたことに深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

 髙橋には、副賞として賞金300万円とニューヨーク・ブルックリンにおける3ヶ月間の滞在制作の機会が授与される。国際的な場を通していかなる活躍を見せるのか、今後の活動に注目が集まることだろう。

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