CAFAA賞を受賞し、ブルックリンでの滞在研究を経て得たこと。髙橋銑(アーティスト)×斯波雅子(BEAF主催)対談【3/4ページ】

──実際に行かないとわからないことには、数多く出会ったのではないでしょうか。

髙橋 ブロンズや野外彫刻については、人よりは知っている状態だと思っていましたが、まだまだ知らないことばかりだと、身の引き締まる思いができたことはまず大きいです(笑)。あとは、やっぱり実際に作品を見ることが重要だと本当に感じました。MoMAやメトロポリタンなどで有名作品をきちんと見ることは大切だと思いましたし、ディア・ビーコンに行った印象も凄まじかったです。

 コンセプチュアルで大規模な作品を多く収蔵している美術館なのですが、そういった類の作品は、そのまま保存されたり、誰かの手に渡ったりすることが難しいと考えられています。その考えが前提にあると、アーティストとしても制作にブレーキをかけてしまいがちになってしまう。しかし、実際に作品がそのまま所蔵され、展示されている様子を見たことで、自分の制作の可能性をもっと広げていけるのではないか、心にあったブレーキも発想を変えればはずすことができるはずだ、と考えることができました。ディア・ビーコンでそれを肌感覚で知ることができたのはとても大きかったです。

ディア・ビーコン、ルイーズ・ブルジョワ《Crouching Spider》(2003) 撮影=斯波雅子

──アーティストとして制作を続けるうえで髙橋さんの視野がどう広がるか、そのキーワードが保存修復だというのがとても興味深く感じます。 

髙橋 保存修復と関連して、ブロンズ鋳造所に連れて行っていただいたんですが、そこの職人のお父さんからも色々と感じるものがありました。というのが、僕の父が保存修復家だったんですよ。父の手ほどきを受けて美術に関わり始めたので、やはり鋳造所で、影で文化を支えてきた人たちの生き方や態度を見ると、言葉にできない痺れるものがあります。ニューヨークの大都会にもそういう方がひっそりと仕事をされていて、戻ってから父との接し方も少し変わったというか、父のやってきた仕事のことをもっと理解できたらいいなと思えるようになりました。

斯波 髙橋さんの人間力というと簡単になってしまいますが、とても真摯に向き合っていらっしゃることが相手にも伝わるから、裏側まで見せてくださるし、一般的に知られていないような作家の裏話などを聞くこともできたのだと思います。オープンな態度で、スポンジのようにいろいろな情報を吸収していただくことが大事だと思っていたので、滞在研究の機会として有効に活用していただけた実感があります。

──滞在期間に得たものは、どのように記録したのでしょうか。

髙橋 空いた時間に週報というかたちでテキストに書いて残したのですが、日々受け止めたこと、感じたことを斯波さんと話す時間はとても大切でした。日々本当にサポートしてくださって、僕が話したことから次のリサーチ対象を提案していただけて、内容の濃い滞在になりました。

斯波 訪問先で話が盛り上がって滞在時間が2倍かそれ以上になることもよくありましたし、あまりにもスケジュールが密に入っていたので、定期的に休める時間を大事にしました。咀嚼という言葉をよく使ったのですが、この滞在研究が髙橋さんの今後の活動にどのようなかたちでか反映されるはずだと思うのですが、そのためには咀嚼する時間が必要です。 

編集部

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