baanaiが描く無数の「ARIGATOU GOZAIMASU」とその先の未来

コム・デ・ギャルソンの服、DM、バッグなどにカリグラフィを基本とするアートワークが起用され、以後、目覚ましい活躍を続けるアーティストのbaanai。3月31日まで個展が開催中の伊勢丹新宿店メンズ館2階「ART UP」で、ライブペインティング終了後に話を聞いた。

文・ポートレート撮影=中島良平

baanai

 ファッションのコアを表現しながら、アートの視点からより幅広いクリエーションを発信する伊勢丹新宿店メンズ館のプロジェクト「ART UP」が、スタートして1周年を迎えた。それを記念して行われているのが、baanaiの新作個展「Capillaries」だ。

展示風景より

 そもそもこの「ART UP」とは、2019年2月に伊勢丹新宿店メンズ館2階「メンズクリエーターズ」のフロアに誕生した、ファッションと親和性の高いアーティストのギャラリースペース。より幅広い「クリエーション」を発信することを目指し、この1年間で様々な個展や企画展を行ってきた。バイヤーの視点でキュレーションした作品の数々から、アートとファッションのコラボレーションの未来を生み出す空間をファッションの売り場に設ける試みだ。

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 baanaiは、このART UPのこけら落としとして展覧会「inaiinaibaanai」(2019年2月27日~3月26日)を開催。そのちょうど1年後に当たる今年、ふたたびこの場所で個展を行うこととなり、3月7日にはライブペインティングも実施された。

ライブペインティングの様子
ライブペインティングには多くのオーディエンスが集まった

 baanaiは神奈川県藤沢市生まれ。2015年にコム・デ・ギャルソンの川久保玲にポートフォリオを送ったことをきっかけに、その作品が同ブランドのDMやバッグなどに採用されたという異例の経歴の持ち主だ。

 独自のフォントで手がけたカリグラフィカルなアートは話題を呼び、以来、多くのファッションブランドとのコラボレーションをはじめ精力的に作品を手がける。

 baanaiは、川久保にポートフォリオを送った当時のことをこう振り返る。「ファッションの本をふと見たときに川久保玲さんのポートレイトが衝撃的で、厳しい審美眼を持った人に作品を見てもらいたいと思って送りました」。

一心不乱に筆を動かし続けるbaanai

 「アートは自分の感性を世にアピールするものだと思うんですけど、自分はそうやって自由に思いついて何でも発信できる天才ではないので、主観性と客観性を持ってやることが必要なんだとファッションブランドと仕事をして学びました。自分の描きたいものがなんなのか、考えながら見つけることを学べたと思っています」。

会場にはbaanaiが手がけたコム・デ・ギャルソンのバッグを持ったファンも
ライブペインティングの様子
垂れ落ちていく絵具も画面を埋め尽くす要素となった

 これまで画面を特定の言葉で埋め尽くす手法を作風のひとつとしてきたbaanaiは、この3年ほど「ARIGATOU GOZAIMASU」の文字を1年365日、グラフィカルな表現として描き続けてきた。キャンバスをその文字で埋め尽くすライブペインティングでは、およそ迷いなく驚くべきスピードで画面を埋め尽くしていった。両手で15センチ四方ほどの正方形を示しながら彼はこう語る。

 「このぐらいの広さのスペースしか見ていないんですよ。そこにただ次々に描いていく。自分が作品に求めるのは強さだと思っています。きれいにまっすぐに描き続けることはできないんですが、斜めになっても上下がずれてもぎっしり描き続けて画面を埋めれば強さが生まれる。それが自分の作品づくりの基本です」。

 ただその裏側には、いつの日にかと見据えている展望も隠されていた。

「それを続けた先に、いつか『余白の美』にたどり着きたいと思うんです。画面を埋め尽くすことを続けたら、そこに到達するかもしれない。そのためじゃないですけど、いまは画面を埋め尽くすことを徹底的にやったほうがいいと思っています」。

 ART UPのライブペイントでは、初めての百貨店での試みとなり思いがけずオーディエンスも多いなかで緊張もしたというが、脇目も降らずにスピーディーに描く様子を大勢が固唾を飲んで見届けた。絵具が垂れながら、独自のフォントと絡みあいながら画面を生み出すbaanaiの表現。その向かう先を追いかけ続けたい。

ライブペインティングでは多くのオーディエンスがスマートフォンのカメラを向けていた
baanaiが使った画材

編集部

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