YAUが掘り起こす街の創造力。「アートアーバニズム」の未来を見据えて【3/8ページ】

無意識を掘り下げて自分の欲望と出会う

 演劇ユニット「サンプル」を主宰する劇作家・演出家・俳優で、2011年に『自慢の息子』で第55回岸田國士戯曲賞を受賞した松井周は、「大丸有標本室」と題するプロジェクトを2024年5月に立ち上げた。2019年に立ち上げたコミュニティ「松井周の標本室」の発展版で、今回の参加者は大手町・丸の内・有楽町で働く人たちに限定して公募。知的好奇心を媒介に参加者が集い、YAU STUDIOが入居する国際ビルが閉館を予定する25年3月に、成果展の開催を目指す新たなコミュニティとして始動した。「パフォーマンスでも小説でも絵でも、表現だったらなんでもありの公募なので、YAUも自由に使える場として活用させていただきました」と松井は話す。

 「『標本』という言葉はずっと前から使っているのですが、人間は社会的に分類される生き物であり、進んで分類されたい欲望(=あるカテゴリーに所属したい願望)があると同時に、分類されることへの反発ももっています。そこで標本という言葉が自虐的な意味も込めて出てきたのですが、自分を世の中にいるある種族の標本(サンプル)として見たとき、改めて自分は一体何者なのかを問うと、自分の社会的に分類されない特殊な部分もあることにも気づくはずです。『大丸有標本室』の活動を通して、参加者の皆さんに自分の無意識の部分を掘り下げていただき、そこで見つけた自分の欲望と結びついた作品を制作してもらおうと考えました」。

 参加者は金融関係者や企業秘書、投資家、公務員など様々だ。秘書として働く参加者のひとりである津保綾乃は、「言葉のための祭儀」と称するインスタレーションとパフォーマンスを完成させた。その発端となったのは、言葉の正しさ(文法、表記、リズム…)への偏執狂的な執着だ。

YAU OPEN STUDIO’25より、「大丸有標本室」の「言葉のための祭儀」
YAU OPEN STUDIO’25より、「大丸有標本室」の「言葉のための祭儀」

編集部