変わる生存戦略
ローズマリー・フィオーレは、2011年から先述の「Immigrant Artist Mentoring Program」でメンターを務めており、メンティーたちの課題を俯瞰している。スタジオ代や生活費の高騰、キャリア構築、時間管理やコミュニケーションに関するもの、アメリカ文化への適応が共通課題だと彼女は言う。「パンデミック以降は、ニューヨークで活動するアーティストの環境はより厳しくなりました。生活コストのさらなる上昇により、専業アーティストとしての生存が難しくなっています」。

先のクラインの言うように、スタジオの問題は大きい。かつてブルックリンのウィリアムズバーグやブッシュウィックといった人気エリアでスタジオをもつことは、作業スペースの確保以上に、「確立された活気あるアートコミュニティへの参加権」や「露出」に対価を払う側面があった。ただ、環境は変わってきている。「2006年頃にウィリアムズバーグにスタジオをもっていましたが、当時は1平方フィート(約0.0929平米)あたり1ドルが相場でした。いまは同じ場所でその何倍もかかります。最近では、高額なスタジオを借りるのではなく、クイーンズやブロンクス、スタテンアイランドなど、もっと小さいアーティストコミュニティでスタジオを探したり、自宅の一角や助成金付きのスタジオ、公共の場で制作したりするスタイルに移行するメンティーが増えています。そしてスペースの制約に甘んじるのではなく、スケッチブックやノートPCでの作業、小規模な作品へと制作内容を調整してでも、『創造の流れ』を止めないことが大切です」。
さらに、制作だけに特化するのではなく、キュレーターや教育者といった役割を兼任する「マルチキャリア」の傾向が顕著だという。「コミュニティと深くつながることで、自身の作品制作にも良い影響を与える『包括的な』キャリア形成が意識されるようになってきています」。クラインが提示したような問題を背景に、近年、助成金やレジデンシーのニーズが高まり、競争が激化している。選考を突破するのは非常に困難だという。こうした状況のなかで、NYFAのメンターたちが勧めているのが制度への依存からの脱却だ。「いま、既存の機関に頼るのではなく、自ら機会を生み出す『起業家的アプローチ』へのシフトが起きています」と彼女は言う。これはつくり手たちにとってこれからの重要な生存戦略のひとつになっていくだろう。
クラインの指摘した点は、確かに現実的な問題として、アーティストたちに大きな影響を与えている。しかしインタビューを通して、厳しい状況のなかでもみな、ネットワークや創造性を駆使し、活動する方法を切り拓き続けている姿が浮かんできた。既存の権力構造からの脱却が、これからの鍵となるように見えるが、それは反権威主義というよりも、実需から生まれている。彼女たちの話からは、ニューヨークをアートセンターたらしめるエコシステムは逆風のなかでも健在で、苦境に呼応しながら、いまも進化を続けているように感じられた。



















