ルールを知り、自ら機会をつくる
日本人作家の安田佐智種は東京藝術大学の修士課程を修了後、2000年代初めから、海外派遣プログラムを通じ、何度もアメリカでのレジデンシーを経験していた。そして2006年にアメリカ人の夫と結婚したことを機にニューヨークへ移住。その後は、日米を行き来しながら活動をしていたが、アメリカでも修士号が必要と感じ、クイーンズ・カレッジでソーシャル・プラクティスを2年半学んだ。学校が提供するスタジオや設備を徹底的に活用し、卒業後も同校経由で助成金に応募し、それをスタジオ代に充てている。

彼女は、外から来た人間として、ニューヨークのアート界のエコシステムの把握は必須だという。「現地のアーティストは、どこのレジデンシーや助成金のステータスが高いかというノウハウを当たり前にもっています。私はほかの人のCVを見比べて、後追いで覚えるしかありません。彼らと同じゲームに参加するには、ルールを知ることが最低限必要です」。ニューヨークでアーティストとしての価値を高めていく過程を、彼女は「モノポリー」に見立てている。
ニューヨークでは、情報を教え合うことで関係性を築き、お互いを高め合う慣例がある。それは活動を継続するにあたり、人間関係がどれほど大切かを表す。そのなかで自分の作品を知ってもらうことは第一条件だ。「自らの作品を言語化することを強く求められ、とくに社会的問題に対する批判的な視線を要求されます。日本では主観的な感覚や美学が重視されますが、アメリカでは作品に含まれる社会的問題を語ってよいのだと気づきました」。日本とは違う、作品の解釈の受け皿が存在する。それが制作における刺激ともなる。彼女は最近新しい試みを始めている。
それは建築家の夫がデザインした家のオープンハウスを行う際、自身や知り合いの作家の作品をステージングの一環で展示し、家の購入者が希望すれば、作品も販売するというものだ。通常、富裕層のアートコレクションは、アートアドバイザーが仲介することが多いが、安田の方式では、アドバイザーもギャラリーも介することなく、アーティストと購入者が直接やり取りできる。さらにつくり手がギャラリーの方針に迎合する必要もない。仕組みを熟知したうえで、既存の作品販売経路を逸脱する戦略を考える創造性は、ニューヨークで生き延びるための大事なスキルとなる。



















