アーティストを支えるエコシステム
ニューヨークでアートに携わっていれば必ず名前を耳にする団体に、ニューヨーク芸術財団(New York Foundation for the Arts、通称NYFA)がある。1971年に設立されたNYFAは、アーティストや文化事業に従事する人々への支援や情報提供を行う非営利団体だ。創立以降、総額8400万ドル(2026年7月の為替レートでは約136億円)の助成金をアーティストに支給し活動を支援してきた。メンターシップをはじめとした数々のプログラムも実施しており、昨年は7000人以上がプログラムに参加した。NYFAのサイトには、アート関連の求人や賃貸スタジオの募集なども掲載されており、情報ハブとしても認知度が高い。

NYFAでは、アメリカ国内唯一となる移民アーティスト向けのメンターシッププログラム「Immigrant Artist Mentoring Program」を開催している。2007年にスタートしたこのプログラムでは、これまで76ヶ国から500人を超えるアーティストを受け入れてきた。プログラムの参加者(メンティー)には、アメリカ国外で生まれ、アメリカに来てアーティストを目指すようになってから10年未満であるという条件がある。いわば、クラインの論考の当事者たちだ。今回、本年度のプログラムに参加したメンティー2人とメンターに話を聞くことができた。3人は、クラインの提示した問題をどのように受け止めているのだろうか。
「ここにはチームスピリットがある」
フランス出身のセリーヌ・マイ・ゼーハーゼは、パリで出会ったアメリカ人と結婚し、ニューヨークにやってきた。もともと高級ファッションブランドで販売の仕事をしていたが、性格に合っていないと感じていた。そんななか、子供の頃から好きだった絵を再開したことで、アーティストの道を意識しはじめた。ただ、ひとりで絵を描いていても何も始まらないと痛感し、アート・ステューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク(*2)で講座をとるようになり、そこで初めて、ニューヨークのアート界の仕組みやポートフォリオのつくり方を学んだ。

やがて同校のオープンコールに応募した作品が、ウォール・ストリート・ジャーナル誌に掲載され、「宝くじに当たったような衝撃」を受けると同時に、アーティストとして進んでいくのだと確信した。その頃、彼女の作品が見たいと連絡をくれたキュレーターがいたが、スタジオがなく自宅で制作していることを恥ずかしく思い、訪問を断ってしまったという。
「スタジオを借りる場合、自宅と同じぐらいの家賃がかかってしまうため、現実的に難しいのです。NYFAのメンターを通して、確立したアーティストでも自宅をスタジオとして使っている人たちがいることを知りました。いまは、家で制作していることをスティグマだとは思わなくなりました」と話す。彼女はニューヨークに来ていなければ、アーティストを志すことはなかったと断言する。
パリで暮らしていたとき、そこでのアート界は非常に閉鎖的な世界に見えた。いっぽうでニューヨークのアート界は誰にでも開かれているという。「毎週どこかでオープニングがあり、レジェンド・アーティストの話を間近で聞くこともできます」。彼女が強調するのは、ニューヨークのアーティストたちの「チームスピリット」だ。アーティストたちは、狭い世界のなかで、ともにチャンスを掴もうと、展示機会の情報共有や、知り合いの紹介などを積極的に行う。こうしたコラボレーションの精神、それを支えるエコシステムが幾重にも存在する。「こうした寛大なサポート体制は、驚くべきもので、ほかの場所では得ることのできない唯一無二のものだと感じます」。彼女はニューヨークを離れるつもりはないという。
*2──ニューヨーク市マンハッタンにある、1875年創立の美術学校・美術家組織。大学のような学位授与を目的とせず、「アーティストによるアーティストのための教育」を掲げることが特徴だ。



















