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「香港アートウィーク2026」で注目すべき展覧会・アートフェア【3/4ページ】

黄竹坑(ウォンツォクハン)

ジャファ・ラム「Asteroid J-734」(アクセル・ヴェルヴォールト香港)

 アクセル・ヴェルヴォールト香港では、香港出身のアーティスト、ジャファ・ラムによる個展「Asteroid J-734」が3月21日に開幕する。本展はラムにとって同ギャラリーでの3度目の個展であり、2022年の展覧会以降に制作された新作を中心に紹介される。

 ラムは長年にわたり、布や木材、陶器、金属など多様な素材を横断する実践を展開してきた。本展のタイトル「Asteroid J-734」は、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』に登場する小惑星に由来し、記憶や帰属、アイデンティティの探索といったテーマを象徴する。

 展示では、古い木材や粘土などの素材を組み合わせた新作彫刻やインスタレーションが発表される。ラムは近年、嶺南地方の伝統的な素材や手仕事の文化を取り入れながら、個人の記憶と土地の歴史を結びつける作品を制作してきた。多様な素材が交差する展示空間は、自己探求と帰属の感覚をめぐる詩的な風景を提示するものとなる。

「Horizons: South」(Antenna Space Hong Kong)

 アンテナスペース香港では、同ギャラリーの香港拠点における初の展覧会「Horizons: South」が3月21日に開幕する。本展は、上海で活動してきた同ギャラリーが香港に新たなスペースを開設することを記念して企画されたもので、複数の世代のアーティストによる作品を紹介する。

 展覧会タイトルは、宇宙論における「イベント・ホライズン(事象の地平線)」という概念に由来する。キュレーターのロビン・ペッカムは、分断が進む現代世界において、異なる文化や地域をつなぐ想像力の可能性を示す場として本展を構想した。

 会場は2つの展示空間で構成され、イメージの循環や空間構造、変容のプロセスなどをテーマとした複数の作品群が配置される。シンイー・チェン、ツイ・ジェ、ミレ・リー、アリソン・カッツなど多様な背景を持つ作家が参加し、現代美術における多極的な視点と新たなネットワークの形成を提示する試みとなっている。

トレヴァー・ヤン「swallowing rumination, gracefully」(Blindspot Gallery)

トレヴァー・ヤン「swallowing rumination, gracefully」展の展示風景

 Blindspot Galleryでは、トレヴァー・ヤンによる個展「swallowing rumination, gracefully」が開催されている。香港を拠点に活動するヤンにとって、同ギャラリーでは4回目の個展となる。

 ヤンはこれまで、水槽や園芸、既製品などを用いたインスタレーションや写真を通して、人間関係や社会構造を生態系のメタファーとして読み解く作品で知られる。本展では、タンク作品、光の彫刻、写真、鉱石や岩石を用いた新作インスタレーションなどを展示し、個人の内面世界や感情の揺らぎを空間全体で表現する。

 展示の中心となる彫刻シリーズ《Tears of Falling Suns》(2026)は、中国神話における「羿が九つの太陽を射落とした物語」から着想を得た作品で、溶岩石とサンストーンを組み合わせた彫刻が空間に配置される。また、水槽作品や鉱石を用いた装置は、願望や不安、迷信といった人間の心理を象徴する装置として機能する。こうした作品群を通してヤンは、不確実な時代のなかで人々が抱く孤独や欲望、関係性の脆さを詩的かつ批評的に浮かび上がらせている。

「Amour Aquatique」(PODIUM)

ルイス・ゼルトゥ At the Ditch 2026 Courtesy of the artist and PODIUM, Hong Kong

 PODIUMでは、グループ展「Amour Aquatique」が3月21日から開催される。フラン・チャン、オミョ・チョ、ソヨン・チョン、ミヌク・リム、ルイス・ゼルトゥの5名のアーティストが参加し、「水」をめぐる象徴性を手がかりに、愛、記憶、喪失といった感情の揺らぎを多角的に探る。

 水は古来より文化や宗教、神話のなかで重要な象徴として扱われてきた。本展では、その流動的な性質をメタファーとして、個人的記憶や社会的経験、環境や政治といった複層的なテーマを読み解く。川の流れや海の広がり、霧や氷といった多様な水のイメージは、時間の蓄積や感情の変化を象徴するものとして作品に取り込まれている。

 シルクを用いた幻想的な風景画で知られるフラン・チャンの作品や、ガラスと金属を組み合わせた彫刻で記憶の断片を可視化するオミョ・チョの作品など、それぞれの作家は異なるメディアを通して水の循環や変容を表現する。展示全体を通じて、水がもつ生成と消失、癒しと侵食といった相反する力が、現代社会における感情や関係性のダイナミズムと重ね合わせて提示される。

スラヴス&タタールズ「(وه / who) are you?」(Rossi & Rossi)

スラヴス&タタールズ Down Low Gitter 2018 Courtesy of Rossi & Rossi

 Rossi & Rossiでは、国際的アートコレクティブ、スラヴス&タタールズによる個展「(وه / who) are you?」が3月21日から開催される。本展は同コレクティブにとって香港で初となる個展であり、彫刻、書籍、インスタレーション、パフォーマンスなど多様なメディアによる作品を紹介する。

 スラヴス&タタールズは、旧ベルリンの壁以東から中国の万里の長城以西に至る広大な地域、いわゆる「ユーラシア」を主題に、言語、宗教、文化が交差する歴史と社会の複雑な関係性を探究してきた。本展では、アイデンティティをめぐる問いを出発点に、多言語性や多宗教性といった文化的多層性をユーモアや寓意を交えて提示する。

 例えば、書物を串刺しにした作品シリーズ「Kitab Kebab」は、知識と身体的経験を重ね合わせる象徴的な作品として紹介される。ポップカルチャーや神秘思想、口承文化、学術研究を横断する独自のリサーチ方法を通して、同コレクティブは「あなたは誰か」という普遍的な問いを、軽やかで批評的な視点から再考する機会を提示する。

「The Uncanny」(Art Intelligence Global)

草間彌生 Driving Image 1964–66 © YAYOI KUSAMA

 アート・インテリジェンス・グローバルでは、グループ展「The Uncanny」が3月21日にスタートする。本展は「不気味なもの(uncanny)」という概念を手がかりに、日常のなかに潜む違和感や心理的不安をテーマにした作品を紹介する。

 展示の中心となるのは、草間彌生によるインスタレーション《Driving Image》(1964–66)だ。家具やマネキンを水玉模様で覆った作品は、家庭空間を舞台にした奇妙な光景を作り出し、日常の物が突如として異質な存在に変化する瞬間を提示する。

 さらに、ロバート・ゴーバーの彫刻やサルバドール・ダリのシュルレアリスム作品、ナム・ジュン・パイク、ルイーズ・ブルジョワ、シンディ・シャーマンらの作品も紹介される。20世紀を代表するアーティストの作品を通して、欲望や記憶、不安といった心理的領域がどのように視覚化されてきたのかを探る展覧会となる。