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「香港アートウィーク2026」で注目すべき展覧会・アートフェア

アート・バーゼル香港2026の開催にあわせ、香港各地で多彩な展覧会が展開されるアートウィーク。本稿では、M+や大館コンテンポラリー、Para Siteなどを中心に、今年注目すべき展覧会をピックアップして紹介する。

香港の風景 Courtesy of Art Basel

美術館&アートセンター

「Lee Bul: From 1998 to Now」(M+)

「Lee Bul: From 1998 to Now」展の展示風景 Photo by Lok Cheng. Image courtesy of M+, Hong Kong

 西九龍文化区のM+では、韓国を代表する現代美術家イ・ブルの大規模回顧展「Lee Bul: From 1998 to Now」が開催中。1990年代後半から現在に至る約30年の制作を包括的にたどる本展では、彫刻やインスタレーション、ドローイングなど200点以上の作品が並んでいる。

 イは1980年代末に活動を開始し、身体やジェンダー、社会制度を批評的に扱う作品で注目を集めてきた。その後はテクノロジーと人間、ユートピア思想、近代化の理想とその挫折といった主題を横断しながら、多層的な実践を展開している。本展では、そうしたイの制作を3つのセクションに分けて提示する構成となっている。

 近代のユートピア思想を問い直す大型インスタレーション「Mon grand récit」シリーズ、人体と機械の融合を主題とする「Cyborg」シリーズ、さらにドローイングや模型を通して制作過程と思考を読み解くセクションなどを通じ、イの思想と造形言語の変遷が浮かび上がる。急速な都市発展を続ける香港という文脈において、未来や人間の可能性をめぐる問いを改めて提示する展覧会だと言える。

「Stay Connected: Supplying the Globe」(大館コンテンポラリー)

「Stay Connected: Supplying the Globe」展の展示風景 Courtesy of Tai Kwun. Photo by Kwan Sheung Chi

 大館コンテンポラリーでは、大規模展覧会シリーズ「Stay Connected: Art and China Since 2008」の第2章「Stay Connected: Supplying the Globe」が開催されている。本展は、中国の急速な経済成長とグローバル化のなかで形成された生産・物流ネットワークに着目し、現代社会を支える物質的流通の構造を芸術の視点から検証するものだ。

 40名以上のアーティストが参加し、インスタレーションや映像、参加型プロジェクトなど約70点を展示。中国が世界有数の製造拠点へと変貌する過程で生じた社会的変化や、労働、移動、環境といった問題を、個人の物語や地域の歴史を通して可視化する。展示は、産業発展が自然環境や都市空間に残した痕跡、労働者の経験、人・モノ・文化の越境的な流れといった複数の視点から構成されている。

 参加作家には李明、張如怡、鄭源、致穎らが名を連ね、急速な都市化や物流システムの背後にある人間の経験に光を当てる。グローバル経済の巨大なネットワークを背景に、日常に埋め込まれた社会構造や人間の関係性を捉え直す契機を提示している。

「Threading Inwards」(CHAT紡織文化芸術館)

マルコス・クエ The Spirit of Labour: ZhiNü 2026 Image courtesy of Marcos Kueh

 香港の旧紡績工場を活用した文化施設・CHAT紡織文化芸術館(Centre for Heritage, Arts and Textile)では、2026年春のプログラムとしてグループ展「Threading Inwards」が3月21日から開催される。本展は、織る、染める、縫うといったテキスタイルの行為が、精神性や記憶、信仰、感情といった内面的領域といかに結びついてきたかを探る試みだ。

 アジア各地から14名のアーティストが参加し、テキスタイルを用いた作品を通して、個人と社会の記憶や身体感覚、共同体の歴史を立ち上げる。例えば、繊維産業を支えてきた女性労働者の歴史に焦点を当てる、マルコス・クエによる高さ約10メートルの大型タペストリーが展示。また、IV Chanによるインタラクティブな彫刻作品など、観客の身体的関与を促すインスタレーションも展開される予定だ。

 さらに、香港の民間信仰を扱うムーニ・ペリーの映像作品や、バリ島の葬送儀礼に着想を得たチトラ・サスミタの新作など、地域ごとの文化的背景を反映した作品も紹介。テキスタイルという柔らかな素材を媒介に、人と人とのつながりや精神的回復、感情の共有といったテーマが静かに浮かび上がる展覧会となるだろう。

「Site-seeing」(Para Site)

「Site-seeing」展の展示風景 Photo by Felix SC Wong

 香港のインディペンデント・アートスペース、Para Siteでは、開館30周年を記念するプログラムの幕開けとして展覧会「Site-seeing」が3月14日から開催されている。本展は、1996年に同スペースで行われた同名展を参照しつつ、その問題意識を約30年後の現在において再検証する試み。都市空間や記憶、そして制作行為が、グローバル都市の変化のなかでどのように変容してきたのかを問い直す。

 参加作家にはトリア・アスタキシヴィリ、ヘマン・チョン、コ・シントン、ナウィン・ヌットン、アンナ・スー・ホイ、王博と潘律、鄭天依、鍾笛鳴らが名を連ねる。インスタレーションや映像、彫刻など多様なメディアを通じ、急速な都市開発がもたらす公共と私的利益の衝突や、制度・都市計画によって生じる疎外感といった現代都市の複雑な力学を可視化する。

 いっぽうで、都市の隙間に立ち現れるユーモアや偶然の美しさ、日常の些細な意味にも目を向けている点も特徴的だ。Para Siteの歩みを踏まえながら、アジア太平洋地域の作家たちの視点を交差させることで、都市の変化が私たちの経験に与える影響を多角的に捉え直す機会となっている。