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有識者が選ぶ2022年の展覧会ベスト3:小田原のどか(彫刻家、評論家、出版社代表)

数多く開催された2022年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は彫刻家で評論家、出版社代表として活動する小田原のどかのテキストをお届けする。

文=小田原のどか

「Don't Follow the Wind」より

「生活のデザイン ハンセン病療養所における自助具、義肢、補装具とその使い手たち」」(国立ハンセン病資料館/3月12日〜8月31日)

展示風景より

 ハンセン病回復者の方々の自助具や補助具に光を当てた本展は、両下脚を切断した木村庄吉さんが考案・製作した《ブリキの義足》(1911年)の展示から始まる。ハンセン病隔離政策により患者を一生隔離し続けるため設立された当時のハンセン病療養所では支援が乏しく、患者たちは自助努力を強いられた。簡素さと力強さを備えた《ブリキの義足》を生み出したのは、木村さんの優れた観察眼と造形力であると同時に、社会の無関心・不寛容と国の誤った政策である。感染症の大流行が現在進行形で起きているコロナ禍においてこそ、極めて感染力の弱い細菌による病であり、現在この国に恐れるべき感染源はないハンセン病をめぐる過去の誤謬を、元患者らの生きた証しであるそれらの道具を見ることとともに知る意義を痛感させられた展覧会だった。

「仙台インプログレス」(宮城野区岡田新浜地域/2016年〜)

 旧北上川河口から阿武隈川河口までをつなぐ日本最長の運河・貞山運河を舞台に、2017年から始まった「仙台インプログレス」。宮城県仙台市新浜地区の人々の「橋が津波で流されて運河を渡れなくなった」という声から川俣正が構想した貞山運河に橋を掛けるプロジェクトは6年目にしてついに、東日本大震災の津波で流された橋を11年ぶりに「船橋」として再建させ、途切れていた海までの動線をつなぎ直した。川俣がここで採用した船橋は、船を複数並べ、その上に板を渡して橋の代わりとする技術で、「トラヤヌスの記念柱」(113年)にも刻まれている。近年ではイラン・イラク戦争、ロシアによるウクライナ侵攻においても重用され、軍事に活用されてきた長い歴史を有する。そのような人と船橋の歴史の先端で、川俣は破壊や支配のためではなく分断を架橋した。「橋を架ける」ことの含意が更新されたように感じられた。

「Don't Follow the Wind」(帰還困難区域内/10月22日~12月4日[*])

会場となった福島県双葉町

 「見に行くことができない展覧会」である本展の初めての一般公開がどのようなかたちで行われるのかは、多くの者の関心事であったことだろう。この度、避難指示が解除された地区で公開されたのは、小泉明郎の作品だ。しかし、小泉がヴィデオインスタレーションを制作した家屋は、「復興五輪」の陰で取り壊されてしまった。それゆえ小泉は、同作をかつての帰還困難区域を散策するサウンドインスタレーションとして再制作した。音声のみの作品として、「見ることができない」ことに焦点を当てたのだ。東日本大震災の被害としては語られにくい原発事故による被災とこの土地と関わる人々の存在を、見ることができないという不可能性として作品化し、帰還困難区域での経験として一般に公開した。その重要性は計り知れない。

*──作品の一部公開はこの期間だが、展覧会全体は2015年から継続されており、帰還困難区域の解除まで継続する。

編集部

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