友人との関係性が生むレン・ハンの写真世界
中国の写真家レン・ハンが日本で初個展を開いている。野外でヌードの男女が重なり合い、ときには露にされた性器をオブジェのように写した鮮烈な画面により、中国では展示が中止されたり、逮捕されたこともあるという。
だが一方、スタイリッシュで生のエネルギーを湛えた作品群は海外でも注目を集め、とくにこの数年はパリ、ニューヨーク、アントワープ、ウィーンなど世界各地から展示の依頼が続いている。
個展のために初来日したレンを訪ねると、気負いのない、物腰の穏やかな青年が現れた。規制を制作の原動力に転換する作家がいるとすれば、自然体を保ちながら、状況に柔軟に対応していくレンの身振りはそれとは正反対に見える。中国で規制を受けることについても「もう慣れてしまって、もはや何も感じないよ」と飄々とした表情をみせる。
実際、レンの作品の魅力はエロスよりも、モデルの身体を組み合わせて形づくられる、ユーモラスなフォルムにある。木に登ったり、ビルの屋上でアクロバティックなポーズをとるモデルの8割が友人だ。
「彼らと過ごす時間が、自分にとっていちばん楽しいと感じる瞬間」であり、「日常のなかで撮りたいと思った友人に声をかけ、コンセプトや構図はあらかじめ設定せず、信頼する彼らとの関係性のなかから、その場で自然とポーズが浮かぶ」という。
今回の写真集『NEW LOVE』も、初めて訪れたニューヨークで、屋上と公園と場所だけを決め、友人らを介して知り合ったモデルを撮った。ユニークなポーズが多いのは「面白くないならなぜ写真を撮る?」という精神が原点にあるからだ。
日本のカルチャーでは寺山修司の映画や詩が以前から好きだという。「ちょっとレトロなものが好きなんです。1980年代の中国の映画とか」。いまは短編映像の撮影をしており、さらに写真と並行して書き続けている詩集の日本語版の刊行を準備している。自然体のレンの、内に秘められた思想が違う形で開花するのを見てみたい。
(『美術手帖』2015年8月号「INFORMATION」より)