大コレクターの視点から見るゴッホ。『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』
ヘレーネ・クレラー=ミュラーという女性をご存知だろうか。ミュラーはフィンセント・ファン・ゴッホの死後、ほぼ無名だったその作品に出会い、個人コレクターとしては最大規模の約300点を収集した。周辺の画家たちも含めた一大コレクションを築き、それが1938年にクレラー・ミュラー美術館として結実。同館はオランダのゴッホ美術館に次いで、世界で2番目の規模のゴッホ・コレクションを有する美術館だ。
そんなミュラーの視点を通して、ゴッホの人物像と作品に迫るドキュメンタリー映画『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』が、10月25日に公開される。
本作の監修は、キュレーターでゴッホ研究の第一人者であるマルコ・ゴルディン。修行時代に描いた素描から自殺の直前まで、変化し続けたゴッホの作風を波乱の人生と重ね合わせて解説する。また、フランスを代表する女優ヴァレリア・ブルーニ・テデスキがガイド役として登場。ゴッホとヘレーネが残した膨大な手紙から、芸術と人間の生を探究するふたりの深層に迫る内容となっている。
公開:2019年10月25日 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:ジョバンニ・ピスカーリオ
脚本:マッテオ・モネータ
出演:バレリア・ブルーニ・テデスキほか
配給:アルバトロス・フィルム
半世紀の時を経て蘇る傑作。『去年マリエンバートで 4Kデジタル・リマスター版』
「映画史上もっとも難解な映画」としても知られ、1961年の第22回ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞を受賞した『去年マリエンバートで』。その4Kデジタルリマスター版が、10月25日から公開される。
公開当時からスキャンダラスな話題を呼び、後世の映画作家に大きな影響をおよぼした本作。監督はヌーヴェル・ヴァーグの先駆者であるアラン・レネ、脚本は戦後世界文学に革命をもたらしたヌーヴォー・ロマンの旗手、アラン・ロブ=グリエが手がけた。
本作は、ココ・シャネルが劇中衣装をデザインしたことでも知られている。公開50周年の2011年には、故カール・ラガーフェルドが春夏のシャネル・コレクションで本作にインスパイアされたドレスやシューズを発表。今回の完全修復もシャネルのサポートによって実現したものだ。半世紀の時を経て4Kで蘇る、その華麗な世界観を楽しみたい。
公開:2019年10月25日 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督:アラン・レネ
脚本:アラン・ロブ=グリエ
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ジョルジョ・アルベルタッツィ、サッシャ・ピトエフほか
配給:セテラ・インターナショナル
ゴッホには何が見えていたか? 『永遠の門 ゴッホの見た未来』
『ゴッホとヘレーネの森』に次いで11月8日に公開されるのが、ゴッホの孤独でドラマティックな人生を映像化した『永遠の門 ゴッホの見た未来』だ。本作の監督は自身も画家であり、『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)を手がけたジュリアン・シュナーベル。『スパイダーマン』(2002)などで知られる俳優、ウィレム・デフォーがゴッホを演じる。
物語は、ゴッホがパリでゴーギャンと出会い、南仏・アルルへ向かうところからスタート。ゴーギャンとの生活や決別を経てその生涯を閉じるまでを追い、ゴッホが生涯をかけて伝えようとした「この世の美しさ」とは何かを探る。注目したいのは、シュナーベルやデフォーによって描かれた作中の絵画や、カメラに特殊なフィルターを取り付け、ひとつの映像の約半分を屈折させる手法が用いられた独創的な映像。シュナーベルがつくり出すゴッホの視線を、ぜひ劇場で体感してほしい。
「ゴッホ展」(上野の森美術館、~2020年1月13日)が開幕したほか、ゴッホをテーマとした上記ふたつの映画が公開される今年の秋冬。その世界を様々な展覧会や映画で堪能する、またとない機会をお見逃しなく。
公開:2019年11月8日 新宿ピカデリーほか全国順次公開
監督:ジュリアン・シュナーベル
脚本:ジャン=クロード・カリエール、ジュリアン・シュナーベル、ルイーズ・クーゲンベルグ
出演:ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、オスカー・アイザックほか
配給:ギャガ、松竹
「天才」の知られざる努力と苦悩。『草間彌生∞INFINITY』
草間彌生の人生を本人のインタビューや記録映像、その才能を語る芸術関係者の声で追うドキュメンタリー映画『草間彌生∞INFINITY』。本作が11月22日から、リニューアル後の渋谷パルコに誕生するミニシアター「WHITE CINE QUINTO」のオープニング作品として日本初上映される。
監督を務めるのは、草間の作品に心奪われて約10年前に本作の構想を始め、長編映画初監督となるヘザー・レンズ。レンズは、1950年代から70年代初頭までニューヨークで創作活動を行っていた草間がアート界に及ぼした影響が見落とされていることに気づき、制作を決めたという。本作では芸術への情熱を理解されなかった幼少期や強迫神経症という病、単身ニューヨークへ渡った後の活動など草間の半生をたどり、様々な困難を乗り越えて作品が認められるまでを追う。
「私の作品は、私の心の悩みを美術で還元している」と語る草間。本作では、唯一無二の表現者の努力と苦悩を垣間見ることができるだろう。
公開:2019年11月22日 渋谷パルコ8F WHITE CINE QUINTOほか全国順次公開
監督:ヘザー・レンズ
脚本:ヘザー・レンズ、出野圭太
出演:草間彌生ほか
配給:パルコ
アニエス・ヴァルダの情熱あふれる遺作。『アニエスによるヴァルダ』
ヌーヴェル・ヴァーグを代表する映画監督として知られ、アーティストとしても活動したアニエス・ヴァルダは今年3月、乳がんのため惜しまれながらこの世を去った。その遺作『アニエスによるヴァルダ』が、12月21日から公開される。
本作は、ヌーヴェル・ヴァーグ誕生を予見したと言われるヴァルダの長編映画デビュー作『ラ・ポワント・クールト』(1954)から、アーティスト・JRと共同監督を務めたドキュメンタリー作品『顔たち、ところどころ』(2017)まで、その半世紀以上にわたる創作活動を、貴重な映像とともにヴァルダ自身の語りによってつづる集大成的なセルフ・ポートレイトだ。
なお本作とあわせて『ラ・ポワント・クールト』、ヴァルダが事務所兼住居を構えたパリ14区の通りをとらえたドキュメンタリー『ダゲール街の人々』(1975)も公開。いずれも日本での正式な劇場公開が初となる3本を、逃さずチェックしてほしい。
公開:2019年12月21日 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:アニエス・ヴァルダ
製作:ロザリー・ヴァルダ
配給:ザジフィルムズ