今年10月、ヴィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜90)の作品約40点が集結する展覧会「ゴッホ展」(上野の森美術館)が開催される。これと時を同じくして公開されるのが、ゴッホをテーマにした映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』だ。
本作は、自身画家であり、映画『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)などで知られるジュリアン・シュナーベルによる監督作品。ゴッホがパリでゴーギャンと出会い、南仏・アルルへと向かうところから物語は始まり、ピストルによって亡くなるまでの半生を描き出す。
ゴッホはなぜ絵を描き、絵で何を伝えようとしていたのか──本作でゴッホを熱演するのはウィレム・デフォーだ。ゴッホは37歳でこの世を去ったが、それを演じるデフォーの年齢は63歳。26歳もの年齢差だが、デフォー演じるゴッホに違和感はまったくなく、むしろ当たり役だと言えるだろう。シュナーベルはこのキャスティングについて「彼の役柄に対する深い探求、身体的スタミナ、想像力のおかげで、作品は脚本をはるかに上回るものになった」とコメントしている。
今回、作中にはゴッホが描いた作品が多数登場するが、これらはシュナーベルと、シュナーベルに絵画を教わったデフォーらによって描かれたもの。キャンバスに絵具を重ねていくシーンには注目してほしい。
また、カメラワークも特筆すべきポイントだ。大部分が手持ちカメラで撮影されたという本作では、歩いたり走り回ったりするゴッホの視点を躍動的に感じることができる。
加えて、ひとつの映像の約半分を特殊なフィルターを通すことで屈折させるという手法が本作にはたびたび登場する。まるで「めまい」のようなこの撮影スタイルについて、シュナーベルは次のようにコメントしている。「レンズの上と下で被写界深度が違っていて、私はこれがゴッホの視点かもしれないと思ったんだ。普通とは異なるかたちでの自然を視る方法としてね」。
画家であるシュナーベルが撮った画家・ゴッホの半生。ゴッホとシュナーベルの視線の先にあるものに注目してほしい。