2018.3.29

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」が問う、現代の「しるしの価値」

1999年より2008年まで10年にわたり開催された「シヤチハタ ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」が、10年ぶりに再開する。開催に込めた思いを、コンペの特徴と併せて紹介する。

文=杉瀬由希

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よりパーソナルで使い手の心に響く商品を生み出す

 新しいプロダクトデザインを募る「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」がいよいよ復活する。1999年に第1回を開催して以降、毎年開催され話題を呼んでいたが、2008年を最後にいったん休止。それから10年のブランクを経て、満を持して再開する。今回からは特別協賛としてSNDCのバックアップをする運びとなったシヤチハタ舟橋正剛社長は、再開に至った背景をこう語る。

 「いまはオフィスで使う文具も個人で買う時代。昔以上にエンドユーザーの心にダイレクトに響く、パーソナルな魅力を持った商品が求められています。モノに限らずその周辺環境も含め、楽しみ方やコミュニケーションを生み出す製品や仕組みをつくりたい。時代の変化を実感するなかで、SNDCの意義をあらためて見い出し、再開の運びとなりました」。 

シヤチハタ 舟橋正剛社長 撮影=池ノ谷侑花

現代において「しるし」の価値をどうとらえるか

 募集テーマは、シヤチハタにとって原点回帰とも言うべき「しるしの価値」。一昔前ならハンコにまつわるアイデアが大半を占めただろうが、デジタル技術が進化した今日、自らの足跡やアイデンティティを表す「しるし(印)」の手法は多様化している。そうした状況をとらえ、現代における「しるし」の価値を、プロダクトの枠を超えて広い観点から問いたいというのがこのテーマの趣旨だ。過去10回のSNDCでは受賞作品からいくつかの商品化が実現しており、今回も優れた作品は商品化が検討される。

 審査員は、10年前にも同役を務めた喜多俊之、後藤陽次郎、原研哉、深澤直人のほか、ウェブやインタラクティブデザインにおいて実績を持つ中村勇吾が初参加。新たな視点を得た次なるフェーズでの展開に期待が高まる。応募締切は5月31日まで。

審査員からメッセージ

喜多俊之(プロダクトデザイナー、喜多俊之デザイン研究所代表)

 太古の昔から「しるし」の持つ意味は大切なものとして人々の心に刻まれてきました。ハイテクノロジーと電子化が進む私たちの暮らしや環境のなかで「しるしの価値」はますます高まります。10年ぶりに審査に参加することになりました。作品の応募をお待ちしています。

喜多俊之

後藤陽次郎(デザインプロデューサー、デザインインデックス代表)

 「しるし」とは、「足跡を残し、気持ちを伝えること」と言えるかもしれません。そして人が日常で使うモノには、見て美しい、触れて気持ちいい、そんな感覚的な喜びが必要です。まったく新しいアイデアだけでなく、いまあるものを進化させる発想でもいい。人々の暮らしや社会を豊かにするような提案を期待しています。

後藤陽次郎

中村勇吾(インターフェースデザイナー、tha.ltd 代表)

 世界中の人たちの生活がフラットに接続されているこのネットワーク社会において、「私であること」を印すアイデンティティとは具体的にどのような形を伴っていくのでしょうか。そもそも「私であること」を示す意味や価値はどこにあるのでしょうか。「私」の表現について考えることは、この現代社会を描写することにつながっていくのかもしれませんね。

中村勇吾

原研哉(グラフィックデザイナー、日本デザインセンター代表)

 便利にするとか、素早く処理するのもアイデアなら、手間をかけ、丁寧にモノとの関係を見直すのもアイデアです。素早く、なめらかになっていく世界のなかで、人は何をいかに「しるす」のか。若々しい感性も、老練な手管も歓迎したい。そしてなるほどと唸らせてほしい。

原研哉

深澤直人(プロダクトデザイナー、NAOTO FUKASAWA DESIGN 代表)

 マイナンバーやパスワードなど私たちのアイデンティティは数字化され、自分を表すものはもはや名前だけではなくなりました。また指紋や顔など、認証方式は急速に変化を遂げています。ハードウェアからソフトウェアへと移行しつつある現状をとらえ、モノだけでなく行為や仕草などを含め、シヤチハタにふさわしい認証システムの提案にもぜひチャレンジしてください。

深澤直人

『美術手帖』2018年4・5月合併号より)