森村泰昌「楽しい五重人格」

　シュウゴアーツで、森村泰昌による個展「楽しい五重人格」が開催される。

　近年の森村は、「エゴオブスクラ東京2020-さまよえる日本の私」（原美術館、2020）、「M式『海の幸』―森村泰昌ワタシガタリの神話」（アーティゾン美術館、2021）、森村泰昌 x 桐竹勘十郎 人間浄瑠璃「新・鏡影奇譚」（2022）、「森村泰昌：ワタシの迷宮劇場」（京都市京セラ美術館、2022）などの展覧会やパフォーマンスを手がけながら、北加賀屋のM@Mでは定期的に企画展を開催し、大阪大学中之島アートセンターにパブリックアートを設置するなど、多岐にわたり充実した活動を続けている。加えて、今年の4月に出版される新著『生き延びるために芸術は必要か』（光文社新書）といった文筆活動もある。

「わたし」をテーマに、およそ40年間にわたり制作し続ける森村であるが、「森村泰昌」とは何なのか。作品のなかでは美術史の人物になり、映画女優になり、歴史的人物になり、そして現実の世界では写真家であり、映像作家であり、文筆家であり、舞台の演者でもある。多種多様な人格が「森村泰昌」という一つの器の中に同居しているかのようにとらえられる。森村はそのような「統一感が欠如していること、整理されず散乱していること、異なるキャラクターや価値観が混在していること、ヒエラルキーを生み出さないこと」を肯定し、「お定まりのアイデンティティに収斂されること」を回避したいと述べる。

　本展に出品される、森村の最新作、未発表作、近作は、相互に関係性を持たない5つのセクション（＝五重人格）を構成し、各種各様に自在な展開をみせる。登場するのは、森村扮する「甲斐庄楠音」、「ナポレオン」、「ミロの絵画」、「カフカ」、そして「魯迅」。計14点の出品作が奏でる不協和音とともに、「森村泰昌」の多重人格性が、静かにそして楽しく炸裂する。