大阪の街の多様な顔が育む新たな芸術祭。「Study:大阪関西国際芸術祭」に落合陽一、森村泰昌も参加
大阪で新たなアートフェスティバル「Study:大阪関西国際芸術祭」が1月28日に開幕。オフィス街から日雇い労働者の街まで、様々な土地で約20組の作家が作品を展示している。
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大阪を舞台とした新たな芸術祭「Study:大阪関西国際芸術祭」が、1月28日に開幕した。会期は2月13日まで。
同芸術祭は株式会社アートローグが主催。2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)を契機に、世界最大級のアートフェスティバル「大阪関西国際芸術祭」を実現すべく、その実現可能性を「スタディ」するための芸術祭と位置づけられている。
舞台となるのはJR大阪駅前の商業施設グランフロント大阪、北浜の歴史ある料亭「花外楼」、大阪商人発祥の地とされる船場の「船場エクセルビル」、そして西成のあいりん地区にある釜ヶ崎芸術大学だ。「アート×ヒト×社会の関係をSTUDYする芸術祭」というテーマのもと、約20組のアーティストが作品を発表する。
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グランフロント大阪
グランフロント大阪では、鬼頭健吾、奥中章人、淀川テクニック、笹岡由梨子が作品を展示している。北館1階の吹き抜け広場「ナレッジプラザ」では、鬼頭健吾が電飾看板をスプレーでペイントした作品《ghost sign》を展示。夜にかけて周囲が暗くなると、画面の発光により色彩が浮き現れ、行き交う人々の目を引く。
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グランフロント大阪の1階、JR大阪駅に面した「うめきた広場」に設置された奥中章人《INTER-WORLD/SPHERE: Cocooner》(2022)は、虹色に輝く半透明の風船を使った作品だ。本作は自由に触ることができ、かたちや反射する光を変化させる本作で、奥中は人やもののが互いに関係しながら変化するさまを本作で表現したという。また、その隣には淀川テクニック《真庭のシシ》(2018)も展示されている。作家の故郷である岡山・真庭市による依頼で制作されたこの作品は、同市に生息するイノシシをモチーフに、プラスチックや金属のゴミなどでつくりあげたものだ。
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広場にある「うめきたSHIPホール」の2階では、笹岡由梨子のビデオインスタレーション《地球から消える》を上映展示。オカルト、ビデオゲーム、ポーランドの民族思想といった要素を巧みに組み合わせたハイブリッドな作品で、昨年、笹岡のヨーロッパ初個展となったポーランドで初公開された。本作は、領土分割を始めとしたポーランドの歴史を笹岡が研究した成果でもあり、作品の中央にはポーランドの国民的料理であるピエロギによって表現されたポーランド国旗が震動。ポーランドのアイデンティティの揺れが映像とともに表現された。
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花外楼
天保年間に創業したという歴史ある料亭「花外楼」では、ミヤケマイ《復活祭》と《熊手 色絵・大》が展示されている。
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座敷の板の間では欧米の感謝祭であるイースターをモチーフにした《復活祭》を展示。再生のシンボルとなっているウサギを描いた掛け軸と実物の卵を組み合わせ、コロナの時代の切なる祈りを表現した。
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《熊手 色絵・大》は伝統的な東京の縁起物である熊手が生じさせる環境問題に着目した作品。現在は多くの熊手がプラスチック製のため、毎年買い替えのために大量のプラスチックゴミが出ているという。こうした状況を鑑みたミヤケは陶器で熊手を制作し、料亭の壁面に飾り恒久的に使える熊手を提案した。
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なお、両作の一般公開は2月4日と5日のみとなるが、「花外楼」では芸術祭期間中に特別なランチメニュー「Study:大阪関西国際芸術祭 ミヤケマイ コース」を用意。このコースを頼めば、オリジナルメニューとともに作品を鑑賞できる。
船場エクセルビル
解体が予定される1968年竣工のオフィスビル「船場エクセルビル」では、四方幸子や加須屋明子がキュレーションに参画し、11組のアーティストが展示を行っている。
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ビル1階のロビーでは、野田幸江《採集 <船場の植物や自然物を集めてみる試み>》が来場者を迎える。「船場エクセルビル」の周囲はビル街のため公園もわずかだが、野田はこうした環境をつぶさに観察しながら植物や自然物を収集。人々から目を向けらることがない収集物が丹念に床に並べられることで、新たな問いを発している。
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2階では落合陽一がNFT作品《Re-Digitalization of Waves》を発表。本作の原型となったのは、空中に浮遊する鏡面の彫刻が風景を切り取って回転し、人間の魂と風景を写し取るインスタレーション《借景,波の物象化》だ。この物質的なインスタレーションをオールドレンズとデジタルカメラを用いて映像として撮影し、動きのある視覚的なNFTとして再度デジタル化した作品群。本作は、展示室のQRコードから購入することも可能となっている。
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3階では釜ヶ崎芸術大学が巨大なインスタレーション《10年、卒業しない》を展開。NPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」が運営する釜ヶ崎芸術大学は、2012年に大阪市西成区釜ヶ崎にて開講。日雇い労働者の街として知られる釜ヶ崎の街を大学に見立て、地域のさまざまな施設を会場に展開するゆるやかなプロジェクトだ。
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近年は釜ヶ崎に暮らす人たちの高齢化により、記憶や記録に注力しながら「であいと表現の場」としても活動する釜ヶ崎芸術大学。この「であいと表現の場」をそのまま再現したような空間がビル内に出現した。釜ヶ崎で生きる人たちが書いた習字や、寄り集まるための座布団やテーブルが設置され、現地で育まれてきた活動の一端を体感することができる。なお、釜ヶ崎芸術大学は後述の西成でも展示を行っている。
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同じく3階で注目したいのが、西成発のファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」による展示だ。「NISHINARI YOSHIO」は、美術家の西尾美也が西成区山王にあるkioku手芸館「たんす」に集まる地域の女性たちとの共同制作により立ち上げたブランド。会場では、西成を舞台に撮影されたコレクションのファッションフォトの展示に加えて、アトリエの様子をとらえたメイキング映像も上映されている。
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なお、西成のkioku手芸館「たんす」では、2階のショップで実際の服の展示・販売を行っており、写真の迫力を味わったあとはこちらに足を伸ばしてみるのもいいだろう。
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5階で展示を行う河野愛の《< I > boat 》は、アルファベットの「I」をモチーフとしたホテルのネオン看板の一部を使った作品。河野の亡き祖父母が建てたホテルの屋上で光り続けてきたネオンを、同じく役目を終えるビルへと移設。ネオンを違う世界へと船に載せて送り出した。
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6階に展示されている小林椋と時里充によるユニット「正直」による《オフィスミュージック》は、人々を管理する近代的装置としてのオフィスに注目した作品だ。元オフィスである会場では、立体物と機械、ディスプレイが設置され、機械が無意味に棒を動かし続けている。新型コロナウイルス以降、リモートワークが増えてオフィスの役割が変質するなか、近代の労働と環境についての問いを喚起する。
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ほかにも会場では、木村リア、林勇気、ヨアンナ・ライコフスカ、ミロスワフ・バウカ、リリアナ・ゼイツ(ピスコルスカ)が展示を実施。環境への問いかけや自己のあり方、国際政治における権力のハレーションなど、多岐にわたる問いを提示している。
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釜ヶ崎芸術大学(ココルーム)
プロジェクト「釜ヶ崎芸術大学」を立ち上げたNPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」の拠点である西成の「ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム」。この場所は今春、プロジェクトと同じ名前である「釜ヶ崎芸術大学」に改名した。ここで展示を行うのは、コレクティブ・ワスキ、ウーカシュ・スロヴィエツ、森村泰昌 × 坂下範征、谷川俊太郎だ。
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コレクティブ・ワスキはユリア・ゴラホフスカ、ヤゴダ・クフィアトコフスカ、下村杏奈によるコレクティブ。映像作品《気候危機抗議カラオケ》は、誰もが知っているポップソングの歌詞を、地球温暖化をはじめとした環境問題に書き換えるプロジェクトを実施。ロックダウン中のポーランド・ワルシャワで、家でカラオケをしながら、自分たちでできることを模索してつくりあげた。
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美術家・森村泰昌と日雇い労働者・坂下範征による作品《Our Sweet Home》にも注目したい。これまで森村は、ココルームとともに作品を制作したり、「釜ヶ崎芸術大学」で講師を務めてきた。森村と坂下の出会いの場であるこの部屋は、これまでの森村の作品や展覧会のポスターが敷き詰められ、強いインパクトを残している。
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ほかにも、詩人・谷川俊太郎が滞在した部屋では、制作した詩「ココヤドヤにて」を展示。また、社会から排除され孤立しがちな人々と積極的に関わり、公共空間におけるプロジェクトを続けてきたウーカシュ・スロヴィエツが、ほーホームレスたちをホテルに招き入れる映像作品《ヤコブの夢》も上映される。
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オフィス街から日雇い労働者の街まで、大阪という都市の持つ様々な面に触れながら、これからのあるべき世界を問う作品が揃った芸術祭。目標とする「大阪関西国際芸術祭」に向けて、今回の「スタディ」がどのようなかたちで発展していくのか、期待が高まる催しとなっている。