ARTISTS

クリスト&ジャンヌ=クロード

Christo and Jeanne-Claude

 クリスト(本名:クリスト・ヤヴァチェフ)は1935年ブルガリア生まれ、ジャンヌ=クロード(本名:ジャンヌ=クロード・ド・ギユボン)は35年モロッコ・カサブランカ生まれ。夫妻での活動時はクリストとジャンヌ=クロード。クリストはソフィアの美術学校とウィーン美術アカデミーで学んだ後、58年パリに移住し、初期は肖像画と缶や工業製品などを布で梱包する作品を手がけた。ジャンヌ=クロードはチュニス大学でラテン語と哲学を専攻。58年にパリでクリストに出会い、翌年に結婚後、クリストとジャンヌ=クロードとして2人で公共空間での活動を開始する。初期には、ドイツ・ケルンの港で梱包を行った《埠頭のパッケージ》(1961)や、パリのヴィスコンティ通りをドラム缶で封鎖する《鉄のカーテン―ドラム缶の壁》(1962)を発表する。

 64年にアメリカ・ニューヨークに移住し、道路から建物、橋、そして自然環境を舞台とした大掛かりなプロジェクトに着手。オーストラリア・シドニーの海岸を布で覆い、隠された風景の記憶を喚起させる《包まれた海岸線》(1969)、コロラド州ライフルにある幅およそ400メートルの渓谷にオレンジ色の布を掛け、ハイウェイを遮った《ヴァレー・カーテン》(1972)などを手がける。見慣れた風景に変化を与える2人の作品は、梱包と遮蔽の構造が特徴。助成金に頼ることなく自ら資金を調達し、地理的・政治的な交渉や住民らへの協力の呼びかけといった、プロジェクトを完成させるまでのプロセスすべてを含めて作品とし、社会と芸術の接点を主題としている。そのほかの主な作品に、フロリダ州マイアミの島の周りをピンクの布で囲んだ《囲まれた島々》(1983)、パリのセーヌ川に架かる橋を布で包んだ《ポン・ヌフの梱包》(1985)、構想から完成までに25年を費やしたドイツ・ベルリンの《梱包されたライヒスターク》(1995)、ニューヨーク・セントラルパークの歩道37キロメートルに、サフラン色の布を垂らしたスチール製の門を7503本設置した《門》(2005)など。それぞれのプロジェクトは恒久的でなく、解体後は写真や映像、ドキュメンタリー映画などの記録を通してのみ見ることができる。

 日本では、70年の「第10回日本国際美術展 人間と物質」に参加し、91年には茨城とカリフォルニアの一部地域を同時に巨大な傘で覆う《アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91》を実施。95年に高松宮殿下記念世界文化賞・彫刻部門を受賞した。2009年にジャンヌ=クロードが逝去。クリスト単独で活動を続け、16年にイタリア・イゼオ湖にて、浮き橋を布で包んで島と島を結んだ《フローティング・ピア》を発表する。20年にクリストが逝去。没後、ポンピドゥー・センターで2人の回顧展「Christo et Jeanne-Claude: Paris! 」(2020)が開催。生前、約60年にわたって構想していたパリの凱旋門を包むプロジェクト《L'Arc de Triomphe, Wrapped》(1962〜)が2021年に実現した。