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【今月の1冊】
アート市場の現状、あなたは知っていますか?

フリージャーナリストのダニエル・グラネとカトリーヌ・ラムールによる、市場の仕組みにせまった、アート・ビジネスに関する記録書『巨大化する現代アートビジネス』。2010年にフランスで刊行された本書の、日本語版が刊行された。

文=松﨑未來

アート界の大きな渦を、外から暴くジャーナリズム

 本書は、2008年のリーマン・ショックの前後を中心に、アートの世界市場に取材したノンフィクションである。美術書というより、「アート」という名の商品の流通・消費について解説したビジネス・経済書といっていい。

 著者は、それまでまったくアートに関わりのなかった二人のフリージャーナリスト。「トレンドとなるアーティストはいかに生まれるのだろう?」「このマネーゲームを仕切っているのは誰なのだろう?」といった、誰もが持つ素朴な疑問をもとに、各国関係者へのインタビューを重ね、アート市場の仕組みに迫っている。

 著者自身がたびたび繰り返すように、「秘密厳守で不透明な世界」の真相は依然として謎のヴェールに包まれ、『アート・レビュー』誌が毎年発表するアート界の有力者100人(「パワー100」)選出にまつわるエピソードの多くは、まるで雲上の物語のようだ。

 今日、社会に浸透しているように見えるアートも、実際その経済的恩恵は、ごく限られた特権階級に左右されている。多くの読者が、本書を読み進むにつれて、自分がアート界の蚊帳の外に立っていると感じるのではなかろうか。

 もちろん、ヴェネチア・ビエンナーレや、アート・バーゼルをはじめとする国際展やアートフェア、09年に開催されたイヴ・サンローラン&ピエール・ベルジェ・コレクションの「世紀の競売」のルポルタージュなど、2000年代後半のアート市場の事件と流れをほぼ包括した貴重な記録は、一読の価値がある。

 この不可思議で壮大なパワーゲームの成功者たちが、あらゆるネットワークを駆使し、巧妙に布石を打ち、大胆な決断をもって勝利を勝ち得ていることがわかるだろう。

 原書(仏語)は2010年に刊行されており、最新の状況を知らせてくれるものではないが、日本語版刊行にあたって、アートコレクターの宮津大輔により、適宜情報が補完されており、巻末に付された「現代アート資料集」は、本年5月のクリスティーズで記録が更新された「歴代競売落札額トップ10」を含む最新版である。

 原書刊行後、中国のアート市場が高騰と拡大を続けるなか、5年前の世界の動きを、日本は未だ指をくわえて見ているに等しい状況であることを、否が応にも実感させられる。

 中国のアート市場の特性と国内外での問題や矛盾に触れた第8章、そしてフランスの国際市場での立ち遅れに切り込んだ第9章は、日本のアート市場の現状を憂う読者にとって、大いに示唆に富む内容だろう。

(『美術手帖』10月号「BOOK」より)

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