ニューヨークでは、メトロポリタン美術館が保有するバルテュスの《夢見るテレーズ》(1938)の展示を巡る問題が話題になっている。
この作品は、バルテュスの近所に住んでいたテレーズという少女をモデルにしている。この絵が描かれた当時、テレーズは12歳から13歳であった。リラックスしたポーズで目を瞑るテレーズ。そのかたわら、彼女の下着が露わになっている。バルテュスは1936年から39年の間に、彼女と彼女の弟を題材に11作品を手がけており、テレーズはバルテュスのお気に入りのモデルであった。
今回の騒動の発端は、ニューヨーク在住の起業家ミア・メリルが、インターネットの署名サイト「care2 PETITIONS」で、バルテュスの《夢見るテレーズ》(1938)の撤去を、メトロポリタン美術館に嘆願する活動を始めたことにある。サイトのステートメントによると、「幼い女の子が、セックスを暗示するポーズを取るこの絵にショックを受けた。そしてメトロポリタンのような有名美術館が、このような絵を誇らしげに掲げていることに不安を覚えたため」署名を始めたとされている。
「セクシャルハラスメントや性犯罪の告発が、前代未聞の規模で巻き起こっているいまのアメリカで、このような絵をなんの説明もなく展示することは、子供を性の対象とすることを許容しているようなものだ」として、メトロポリタン美術館に対し、作品の撤去、あるいは性的な内容が含まれる絵だという注意書きを解説ラベルに添えるよう要求するのが目的とされている。ちなみに、あくまでもこれは「検閲」ではないと主張している。
12月1日にスタートしたと見られるこの活動に対して、すでに1万人分の署名が集まっている。(現地12月6日時点)
この騒動に対し、メトロポリタン美術館の広報主任ケン・ウェインは「メトロポリタン美術館は、あらゆる時代と文化において重要な意味を持つ美術品を、収集・研究・保存・公開することで、人々と創造性・知識・アイデアをつなぐ架け橋となることをミッションとしています。ビジュアル・アートは、過去と現在を同時に反映する、人々にとって非常に重要なメディアであり、アートに関し知識に基づいた議論を行い、独創的な表現に対する敬意を払うことで、文化の発展をうながすことにつながります。今回のような出来事は、対話のきっかけをもたらしてくれます」と語る。
メトロポリタン美術館は、現時点で作品の撤去は予定していない。