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NEWS / REPORT - 2017.4.26

森美術館で日本初の「#empty」開催。美術館のソーシャル戦略を問う

4月25日、閉館後の森美術館でInstagramと連携したソーシャル・イベント「#emptyMoriArtMuseum」が開催された。19名のインスタグラマーが参加した同イベントの狙いとは?

N・S・ハルシャ《空を見つめる人びと》(2010/2017年)の写真を撮る#emptyMoriArtMuseumの参加者たち

日本初の「#empty」

 「#empty」(「空っぽ」の意)は、2013年にニューヨークのメトロポリタン美術館で初めて公式に開催されたInstagramを使ったソーシャル・イベント(当時のハッシュタグは「#emptyMet」)。閉館後の一般客がいない展示空間で、複数のインスタグラマーを招き、展示風景を撮影・シェアしてもらうというものだ。

 この「#empty」は、海外の美術館ではたびたび行われているものの、これまで日本の美術館では行われたことがなく、Instagram社が把握するかぎり、今回の森美術館が日本初のケースとなった。参加者は一般応募を含む19名のインスタグラマー。同館で開催中の「N・S・ハルシャ展」(6月11日まで)を舞台に、閉館後2時間のあいだ、自由に撮影を行った。

 20代の男女を中心とした「#empty」に、唯一高校生として参加した@demi_osaki(アカウント名)は森美術館にも頻繁に訪れると言い、「とてもいい経験になりました。美術館で撮れるときは撮っています。行った経験をみんなに見てもらいたい、というのがあると思います。でも一番うまく撮れたものはシェアしません。宝物なので(笑)」と話してくれた。

デジタルカメラで《ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ》(2013年)を撮る@demi_osaki

 南條史生館長とN・S・ハルシャ本人も姿を見せた当日。SNSを使わないハルシャは、自身の個展が「#empty」の舞台となり、自分の作品がSNSでシェアされることに関して、次のように語る。「自分の作品は完成してしまえばもう私のものではなくなるので、それは絵画の冒険のようなものとして見守っています。子供の頃、自転車に乗ったビラ配りのおじさんの後を追いかけて、ばらまかれたチラシを拾っては、その内容を友達や家族に口伝えしていたことを思い出しました。紙からネットへ、情報の拡散の形式が違うだけで、当時もいまも変わらない。そこがつくづく興味深いと思っています」。

N・S・ハルシャ

森美術館はなぜ「#empty」を行ったのか?

 森美術館はこれまでも館内の写真撮影に関してInstagramなどでのシェアを呼びかけてきた。今回、「#empty」の実施に踏み切ったきっかけとはなんだったのだろうか。同館のデジタル戦略について、森美術館マーケティンググループ広報・プロモーション担当の瀧奈保美と洞田貫晋一朗に話を聞いた。

会場となった森美術館の入り口

 そもそも森美術館が一般来場者に対して作品の写真撮影を可能にしたのは、2009年に開催された「アイ・ウェイウェイ展:何に因って?」。クリエイティブ・コモンズ(CC)の枠組みを日本の美術館で先駆的に採用し、実現させた。当時はまだSNSが普及しておらず、個人のブログで写真が広く使われだした時代。そういった個人ブログでのシェア・拡散に着目したことがきっかけの一つだったと瀧は語る。「現代美術は敷居が高いと思われがちです。『写真が撮れる』という楽しみ方を提案することで、現代美術にもっと気軽に親しんでほしいという思いがあった」。

 また、「著作権の諸問題に光を当てたい」という目的もあったという。「現代美術の作家は若手が多い。本来はどんどん作品を公開し、見てもらうべきなのに、日本の著作権法にはフェアユース(公正利用)の概念がないから権利を守ることだけに終始してしまう。しかし、作家自身も(作品を)広めたいという希望はあるわけです。そこを柔軟に開放していきながら、著作権についての議論を促進させたい、という思いもありました」。

#emptyMoriArtMuseumの会場風景

 森美術館は2015年にInstagramアカウントを開設、これも日本の美術館の中では先駆けだ。同館はSNS、あるいはデジタルコミュニケーションの重要性をどのように考えているのだろうか。洞田貫は「森美術館のSNSは、来館者に直接情報を伝え、交流できるツールの一つとして、重要視しています」と言う。来館者の8〜9割が40代以下という森美術館。この世代は「スマホ世代」としてSNSとの親和性も高い。同館がSNSに力を入れるもの納得できる数字だ。

 そんなSNSと親和性の高い森美術館が「#empty」を実施した理由とは何か? 「海外の美術館をリサーチしている」という洞田貫はメトロポリタン美術館が「#empty」をきっかけにし、フォロワーを増やした事例を挙げる。「『#empty』の開催は以前から考えていました。『N・S・ハルシャ展』は個展で、すべての写真が撮影可能というのもあり、イベントに適しています。いろいろなところから『インスタグラム映えする展覧会』という評判を聞き、インスタグラマーも喜んでくれるんじゃないかと考えました。『#empty』のように、オンラインをきっかけに、リアルな空間に足を運んでもらう方法を今後も探していきたいですね」。

 昨年10月には、小池百合子東京都知事が都立美術館の写真撮影について解禁に向けた姿勢を打ち出し、大きな話題となった。著作権が大きな課題となるなか、美術館における写真撮影はどうあるべきなのか。瀧はこう語る。「ほかの美術館もどんどん撮影を解放していけばいいと思います。インターネット社会の今こそ、著作権についてあらためて考えていく必要があるのではないでしょうか。フェアユースの是非を含めて、議論や対話が活発になっていけばいいと思います。著作者の権利を守りつつ、世の中のクリエイティビティを促す、それこそが現代美術館のミッションです」。

 現代美術館として、また私立美術館として柔軟かつチャレンジングな姿勢を見せる森美術館。同館における今後のソーシャル戦略に注目していきたい。

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