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アートと気候危機のいま vol.8 フランシス・アップリチャードとマルティーノ・ガンパーのまなざし。能動的に環境意識を持って生活し、制作する【4/7ページ】

素材としてのプラスチックは悪なのか?

──あなたのプラスチック製の作品《アーノルド・サーカス・スツール》についてもお聞きしたいです。リサイクル素材を使うことも検討されたそうですが、実際にプラスチックを使うほうが理にかなっていると判断されたのはなぜか、説明していただけますか?

マルティーノ・ガンパー Arnold Circus Stool

ガンパー 《アーノルド・サーカス・スツール》は2005年につくったものですが、当初は製品としてデザインされたのではなく、ロンドンの丘の上につくられた公共スペース「アーノルド ・サーカス広場」の都市再生プロジェクトのためにつくられたものでした。「アーノルド・サーカスの友人たち」がそれを使用し、徐々に製品となっていった。しかし、「プラスチック製のスツールをつくったなんて、何をやっているんだ?」と自問もしました。それで、もっと深くリサーチし、プラスチックやその影響を理解している人々から情報を得たんです。その結果、プラスチックが問題であることは明らかですが、問題はその使い方にあると気付きました。プラスチックは素晴らしい素材です。

 私たちはみな、ガラス瓶をリサイクルすれば世界が救われると思っているけれど、ガラスはプラスチックの5倍のエネルギーを消費します。いっぽう、プラスチックは石油化学製品からつくられている。それが悪い面です。しかし、一度プラスチックになると、適切に使用すれば非常に耐久性があり、再びリサイクルすることも可能です。

 ただし、大半のプラスチックは不純物だらけという問題はあります。2005年につくったスツールは、少なくとも25年間屋外で使用しても色褪せや劣化がほとんどないほどの耐久性がある。水槽やブイに使われる高品質のポリエチレンでつくられていて、長持ちするように設計されているからです。もしこのスツールが木でつくられていたら、すでに腐っているでしょうし、陶器でつくられていたら重いし壊れやすいし、コストも高くついたでしょう。つまり、物事をもっと包括的に考える必要がある。「プラスチックは悪、木は善」と単純化するのではなく、素材で何をつくるか、どう使い、どう評価されるかによるんです。

──このスツールに関して言えば、根本的に、3年よりも長く大切に使いたくなるようなつくりになっていると感じます。

ガンパー そうですね。このスツールはそうさせるデザインです。壊れないし、良いデザインだから、10年経ってもまるで先週買ったかのように見える。おそらく形式的なクオリティも重要だと思います。それが何なのかを定義するのは難しいですが、良いかたちやデザインには、継続的に評価される持続可能なアイデアがあると考えています。これは、一日だけ見た目が良く、次の日には忘れられて新しいものに目移りしてしまうようなファッションアイテムとはまったく異なるものです。

──おふたりとも、制作プロセスや素材について深く考えているように感じます。これまでの質問ともつながりますが、メーカーが気候変動に関する広い議論のなかで果たせる役割とは何だと思いますか?

ガンパー それについては先ほども少し触れましたが、私たちが世界を救うわけではないということです。だから、「やっています」と大声で主張するのではなく、もっと控えめな方法でやっています。おっしゃる通り、私たちはその議論の一部になることができる。アイデアを出したり試したりして、私たちが間違っている、あるいは少なくともより有害だと思うアイデアがどんなものかを人々とシェアすることができるかもしれません。

マルティーノ・ガンパー Luma, Le Réfectoire, LUMA Arles' restaurants 2020

編集部

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