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アートと気候危機のいま vol.8 フランシス・アップリチャードとマルティーノ・ガンパーのまなざし。能動的に環境意識を持って生活し、制作する【3/7ページ】

素材、物流、プロセスにおいて、アーティストができること

──いまの状況が直接的にあなたの仕事に影響を与えたことはありますか? 先ほど、アート業界は非常にセンシティブであるとお話されていましたが。

アップリチャード アートの輸送や物流について、とても慎重に行動しようと努めています。例えば、ニュージーランドで作品を制作する場合、作品をその場に留め、不必要に世界中を飛び回らせないようにします。どうしても世界の端から端へ運ばなければならない場合は、船で輸送するようにします。また、私のギャラリストであるケイト・マクギャリーは、ロンドンで発足した「ギャラリー気候連合(Gallery Climate Coalition/GCC)」の創設者のひとりです。さらに、私はいまでは1年のうち6ヶ月だけアート作品を制作するようにしています。つまり、制作量を減らすようにしているんですね。これはとても意識的な取り組みです。

──そうなんですね。制作期間を限定することを決めたと?

アップリチャード はい。私は非常に多作なので。実際、気候に中立的な素材(*2)を使って制作します。とはいえ、作品を長持ちさせたい場合はブロンズで鋳造することもありますが、それではまったく気候中立的ではありません。これらの問題についてはよく考えます。そして、ブロンズで鋳造するのは、その作品が売れると確信がある場合のみです。つまり、事前に作品を大量に制作し、保管することはしません。基本的にはゴムで作品をつくり、欲しいと言ってくれる人がいれば、ブロンズで鋳造するようにしています。

フランシス・アップリチャード Cat Queen 2020
フランシス・アップリチャード Hereditary Pile 2023

──実際に制作期間を大きく分け、6ヶ月制作し、6ヶ月休むというかたちなんですか?

アップリチャード もっと細かく2つに分けています。ニュージーランドに行って庭師をしたりして、戻ってきたら3ヶ月間制作をする。そして、またイタリアに行って戻ってくる。休んでいるあいだに大きな作品をつくることはなく、水彩画を描いたり陶芸家と一緒に作業したりする程度ですね。

──それはとても興味深いですね。時間制限を設けて制作するアーティストにはいままで会ったことがありません。マルティーノさんはいかがですか?

ガンパー 私の作品はリサイクルやリユース、アップサイクルに関するものだとよく誤解されています。でも実際、それがすべてではありません。もちろん、一部ではありましたが、主な目的ではないんです。昔から物を修理するのが好きで、壊れたり捨てられた物に価値を見出すのが好きだったし、身の回りにあるものを使うのが好きなんです。

マルティーノ・ガンパー "100 Chairs in 100 Days and its 100 Ways" Abake 2013

──マルティーノさんにとって、再利用するということが強いモチベーションになっているのかもしれませんね。

ガンパー でも、「アップサイクルプロジェクトをしよう」というような考えは、私がやっていることとは違うかなと。というのも、その動機は、ロンドンにいたとき、路上に捨てられた椅子を目にし、そこに価値を見出したからなんですね。そういう意味では、より深いレベルでのアップサイクルだったのかもしれない。でも、アップサイクルという言葉とは違うと思う。私の仕事の多くは、価値と価値システムに関するものです。何かに価値を見出し、それを変化させることで、別の価値が生まれる。そして、価値のあるものをつくるために、金や光り輝く素材を使わなければならないというわけでもない。と同時に、本来の物質的価値よりも高い価値を持つものは、実は長持ちするものだとも信じています。そうすることで、より持続可能なものになる。例えば、誰かのためにオーダーメイドのテーブルをつくるとしたら、それは非常にエリート主義的ですよね。でも同時に、IKEAで買ったテーブルよりもずっと長持ちはするでしょう。

編集部

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