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虚構によって現実を括弧に入れる。岩田智哉評「Tao Hui: In the Land Beyond Living」

映像インスタレーションを中心に社会の諸相を、現実と虚構をないまぜにするように描写することで知られる中国出身のアーティスト・陶輝(タオ・フイ)。その個展「In the Land Beyond Living」が、2月2日まで香港の大館コンテンポラリーで開催された。残酷な現実にいかに抗うことができるのか、The 5th Floor ディレクターの岩田智哉がレビューする。

文=岩田智哉

「Tao Hui: In the Land Beyond Living」展の展示風景より、《Chilling Terror Sweeps the North》(2024) All Images Courtesy of Tai Kwun

虚構によって現実を括弧に入れる

 本稿を執筆している2025年2月上旬現在、一度は停戦に至ったはずのガザではいまだにイスラエルが殺戮を続けている。その果てにはトランプ米大統領が、アメリカによるガザの所有権を主張し始めている。いっぽう、その裏ではロシアとウクライナが侵攻開始から3年経ったいまも争いを続けている。

 またそうした国際情勢の影響を受けた日々の変化。気付かぬうちに変えられてしまう社会のルール、届かない弱者の声。そして、個人個人が抱える日々の苦しみ。

 現実はかくも残酷である。いつか劇的な変化が訪れるのではないかと藁にもすがりたくなるが、そんな淡い希望は泡沫のように消えてゆく。

 香港の大館コンテンポラリー(以下、大館)で開催された陶輝(タオ・フイ)の個展「In the Land Beyond Living」(2024年9月26日〜2025年2月2日)は、残酷な現実をどう生きるか、どう抗うか、虚構を手引きに現実を客体化することでそれと向き合うことを試みる。 

 1987年生まれの陶は中国の重慶市雲陽県省出身で、映像インスタレーションを中心に社会の諸相を現実と虚構をないまぜにするように描写することで知られるアーティストである。本展で彼は、大館の空間を、歪んだ現実を逆照射的に描写する舞台装置へと変容させる。本稿では導線に合わせて展示空間をたどることで、現実と虚構が螺旋状に入り乱れる舞台装置という作家の手法から展示全体の分析を試みる。 

編集部

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