深センがアートのさらなる集積地に。FotografiskaとBASEが開館、2027年には新たな美術館も【2/2ページ】

なぜ深センなのか

 深センは、中国の改革開放政策を背景に急速な発展を遂げ、現在ではテンセントやファーウェイ、DJIなどのテクノロジー企業が拠点を置き、製造業やデザイン産業が集積する都市として知られる。いっぽう、北京や上海と比較すると、現代美術の制度的な基盤の整備は比較的新しく、近年は大型文化施設の建設が進められてきた。

 この都市に、Fotografiskaが中国で2番目の拠点を設けた理由は何か。デヴィレは、近年の文化振興への取り組みの強化や教育水準の高さ、展覧会への関心を持つ人口の多さをその理由に挙げた。「深センがその潜在力を十分に発揮するまでには数年かかるかもしれないことは、当初から明らかでした。それでも、私たちにとって進出する価値のある都市だったのです」。

「Fotografiska Shenzhen」館内の様子 © BAY ART, Shenzhen Bay MIXC

 いっぽう、BASEの何も、深センが持つデザイン、映像、音楽、テクノロジーなどの産業の集積に着目し、「この都市では、クリエイターや技術者、企業、文化機関がともに新しい都市文化をかたちづくろうとしています」と語った。今後は地元のアーティストやデザイナー、技術チームなどとの協働も視野に入れているという。

 こうした動きを象徴するのが、深セン湾エリアにおける文化施設の集積だ。FotografiskaとBASEが位置する深セン湾万象城の近隣には、文化複合施設「深セン湾文化広場」も整備されており、商業施設やオフィス、公共空間と文化施設が一体となった都市環境が形成されつつある。

「Fotografiska Shenzhen」が位置する深セン湾万象城 © BAY ART, Shenzhen Bay MIXC

 さらに2027年には、南山区で2つの新たな美術館が開館する予定だ。ひとつは、テンセントが手がける「融美術館(Rong Museum)」である。後海エリアの複合開発地区に建設される同館は、ドイツの建築家オーレ・シェーレンが設計を担当。延床面積約4500平米、うち展示スペースは約2300平米で、アート、デザイン、建築、映画などを含む視覚文化とデジタル文化を扱う。館内にはアートライブラリーやワークショップ、講演、上映のための空間なども設けられる予定だ。

 もうひとつは、EC大手の京東(JD.com)が設立する「京東美術館(JD Museum)」だ。深セン湾スーパー本部基地に位置する同館は、延床面積1万平米以上を予定し、現代美術やパフォーミングアーツ、文化プログラムを展開する施設として、2027年末の開館を目指している。建築設計は融美術館と同じくオーレ・シェーレンが、内装設計はネリ&フーが担当する。

「京東美術館(JD Museum)」と京東(JD.com)深セン湾スーパー本部基地のイメージ © Büro Ole Scheeren

拡大する文化施設と都市の可能性

 国際的なアートセンターの進出に加え、テンセントや京東といった大手企業が新たな美術館の設立に乗り出していることは、深センの文化施設整備におけるひとつの特徴と言える。とくに深セン湾周辺では、商業開発や企業活動と結びつくかたちで、新たな文化拠点が相次いで生まれている。

 デヴィレも、こうした文化施設の集積には大きな意義があると指摘する。「施設が集まることで、人々はどこへ行けばよいかを理解しやすくなり、機関同士もプログラムを調整したり、イベントを共同で企画したり、アーティストを招いたりしやすくなります」。また、深セン湾エリアを市内だけでなく国際的にも発信し、香港の国際的なアートウィークを含め、「粤港澳大湾区」(広東・香港・マカオグレーターベイエリア)全体の文化活動と連携させたいという。

「Fotografiska Shenzhen」館内の様子 © BAY ART, Shenzhen Bay MIXC

 Fotografiska自身も、地域のアートシーンとの接点を模索している。デヴィレによれば、深セン館では粤港澳大湾区の新進アーティストを対象とした展示スペースを設け、美術館での個展経験がまだない作家を中心に、約1ヶ月間の展覧会を開催する計画だ。上海館では過去約3年間に300件以上のパフォーマンスやイベントを実施しており、深センでも同様の取り組みを進めるという。

 深センでは、経済成長と都市開発に続くかたちで、文化施設の整備が加速している。しかし、施設の数が増えることと、持続的なアートシーンが形成されることは必ずしも同義ではない。国際的な展覧会や人気コンテンツの導入にとどまらず、地域のアーティストによる制作や発表をどこまで支え、継続的な観客を育てていけるのか。

 FotografiskaとBASEの開館、そして今後予定される新たな美術館の誕生は、深センの文化環境が変化の途上にあることを示している。急速に整備される文化インフラが、都市独自のアートシーンの形成にどのようにつながっていくのか。その成果が問われるのは、むしろこれからだろう。

編集部