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草間彌生、最後の展覧会。アムステルダムでたどる70年余りの創作【3/3ページ】

死から再生へ

 草間彌生は1973年に日本へ帰国した。前年にニューヨーク時代の親友ジョセフ・コーネル(1903〜1972)を亡くし、74年には父親の死も経験した。2人の死は、草間のなかに強い喪失感と空虚感を残した。当時、彼女を支えたのは詩や小説など文章を書くことだった。

 また当時、激しい幻覚や鬱に悩まされていた草間は、東京の病院に自ら入院することを決めた。日本社会の保守性に苦しみ、ニューヨークで行ってきた急進的な「ハプニング」や、それをめぐるスキャンダルについて、批判的な報道を受けたが、草間は創作を続け、1978年には初の長編小説『マンハッタン自殺未遂常習犯』を刊行した。

 「死」と「生命の力」というテーマは、草間の創作を同時に突き動かしていた。それは、1975年に制作された何百点ものドローイングやコラージュにも表れている。

かぼちゃ、無限の鏡の間

 草間彌生のアイコンともいえる、かぼちゃの彫刻や絵画も展示室に並ぶ。1980年代初頭から、かぼちゃは草間の作品における重要なモチーフとなってきた。その背景には、農村で過ごした幼少期の記憶がある。植木・苗木業を営む家庭で、植物や自然に囲まれて育った草間。祖父と花畑を歩いていたときに、人間の頭ほどの大きさのかぼちゃに出会い、その愛らしく人懐っこいかたちと、おおらかで気取らない姿に魅了されたという。

かぼちゃの彫刻や絵画が並ぶ展示室。奥のインスタレーションは《生命(REPETITIVE VISION)》(1998) Photo by Peter Tijhuis © YAYOI KUSAMA

 さらに展示室を進むと、「わが永遠の魂」シリーズ(2009–21)の2メートル弱の大きな正方形のキャンバスに囲まれた空間が現れる。その中央に置かれているのが、80センチ四方の《天国へのぼった階段で見た宇宙の姿》(2021)だ。鏡張りの側面のカラフルな窓を覗き込むと、万華鏡のように無限の鏡の間の世界が広がる。

「わが永遠の魂」シリーズ(2009–21)の展示風景 Photo by Peter Tijhuis © YAYOI KUSAMA

 その先では、対照的に、小型のキャンバスを用いた草間の最新シリーズ「毎日愛について祈っている」(※制作年入れる)の作品が壁一面に並び、その中央には、巨大な《無限の鏡の間》(2025)が設置されている。

草間彌生《天国へのぼった階段で見た宇宙の姿》(2021) 撮影:筆者
草間彌生《Infinity Mirrored Room—Illusion Inside the Heart》(2025)内部 鏡面仕上げステンレス、ガラスミラー、着色アクリル 300×300×300 cm 作家蔵 Courtesy of Ota Fine Arts Photo by Peter Tijhuis © YAYOI KUSAMA

 2階には、本展のために特別に制作された《Infinity Mirrored Room—The Hope of the Polka Dots Buried in Infinity Will Eternally Cover the Universe》(2025)が待ち受ける。無限の鏡の間の仕組みを取り入れた巨大なインスタレーションで、空間を埋め尽くす黄色い触手のような形態のオブジェは、《生命(REPETITIVE VISION)》(1998)にも登場したものだ。壁、床、天井にも同じパターンが繰り返され、中央に置かれた鏡の立方体がそれらをさらに反射する。その内部にも同じ光景が広がり、空間はどこまでも増殖していく。一点の水玉から始まり、身体、空間、そして宇宙へと広がっていく反復。展示の最後で観客は、その果てしない増殖のなかに身を置き、草間が長年追い求めてきた「永遠」や「宇宙」を体感する。

草間彌生《Infinity Mirrored Room – The Hope of the Polka Dots Buried in Infinity Will Eternally Cover the Universe》(2025)部分 ミクストメディア Photo by Peter Tijhuis © YAYOI KUSAMA

 「私は、全身全霊の声で、人間の生命と、その永遠の輝きを讃えてきました。いま、人生という喜びに満ちた祭典のただなかで、無限に広がる時空の中に身を置きながら、真理を追い求めています。世界平和への希望と熱い願いを胸に、私の人間への情熱的な賛歌が、皆さんを勇気づけ、インスピレーションを与えることを願っています」。

 これは、今回の展覧会に際して行われたインタビューで、草間が語った言葉だ。幼少期の幻覚体験から生まれた水玉や網目は、やがて身体や空間へと広がり、最晩年には「永遠」や「宇宙」へとつながっていった。本展は、その70年以上にわたる創作を、ひとつながりの軌跡として見渡す機会となっている。

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