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8つのキーワードが浮かび上がらせる、アナ・メンディエタの創造の軌跡。テート・モダンで10年ぶりの英国回顧展が開催中【3/3ページ】

普遍的なエネルギーへと開かれた作品世界

 最後のセクション「境界線(The Threshold)」では、メンディエタ自身の言葉が解説の冒頭に引用されている。

私の作品は普遍的なエネルギーへの信念に根ざしています。そのエネルギーとは、昆虫から人間へ、人間から霊的なものへ、霊的なものから植物へ、植物から銀河へと、あらゆるものののなかを流れているのです。私のアートはそれらユニバーサルな流れを巡らせるための灌漑水路のようなものなのです。(筆者訳)

 タートルネックの襟元に花を挿して自らも花になっていくような連作《無題:シルエタ・シリーズ》(1973)、全身を茶色のペイントで覆い大木と同化した《無題:シルエタ・シリーズ》(1976)からは、自然と人をつなぐ媒体と化す自らの姿を描き出していて、上記のメンディエタの言葉の意味がダイレクトに伝わってくる。

《無題:シルエタ・シリーズ》(1973) © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Courtesy of Marian Goodman Gallery and Alison Jacques, London
《無題:シルエタ・シリーズ》(1976) © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Courtesy of Marian Goodman Gallery and Alison Jacques, London

 鶏の羽で覆われた姿で海岸を走る映像《バード・ラン》(1974)は荒涼とした海辺を、真っ白な鳥となったメンディエタが力いっぱいに走り抜けていき、その様子は爽快で清涼感にあふれ、シンプルなゆえに自然との融合への強い欲望が感じられて清々しく心に響く。

《バード・ラン》(1974)の展示風景 © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Photo © Tate (Yili Liu)

なぜ、いまアナ・メンディエタなのか

 本展のキュレーションを務めたテート・モダン国際アート部門のヴァレンタイン・ウマンスキーに、いま改めてメンディエタの大回顧展を開催する意義について聞いた。

 「テートは2009年に初めてアナ・メンディエタの作品を収蔵しており、20年には彼女の映像作品を収蔵するためのプロジェクトに取り組み始めました。その後、22年頃から本格的に展覧会の計画に着手して、今回の回顧展の開催に至ったのです」。

 「アナ・メンディエタの作品は今日、1990年代とは異なるかたちで理解され得るのではないかとも感じています。世界は根本的なパラダイムシフト(環境への意識の高まりなど)を経験し、そのほか大きな社会的な変化(コロナ禍によるロックダウンや、絶え間ないスマートフォン利用など)も生じています。こうした変化は、アナ・メンディエタの作品が現代の人々の心に非常に強く響く理由のひとつになると信じています。それは彼女の作品が、壮大な時間軸のなかで展開し、自然界とのつながりや関わりを私たちに再認識させ、先史時代の洞窟壁画を想起させると同時に、ライブ・アクションや映像といったいまなお新しさを感じさせるメディアも取り入れているからと考えています」。 

 現在、テート・モダンでは同時にトレイシー・エミン、フリーダ・カーロの展覧会も開かれている。女性アーティストの大規模展3展を同時に開き、そのひとつがメンディエタであることの意味を改めて考えてみたい。

編集部