• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 8つのキーワードが浮かび上がらせる、アナ・メンディエタの創造…

8つのキーワードが浮かび上がらせる、アナ・メンディエタの創造の軌跡。テート・モダンで10年ぶりの英国回顧展が開催中【2/3ページ】

 自然のなかに身体を刻む

 続く広々としたギャラリーでの展示は「木立ち(The Grove)」と名付けられている。アイオワ大学在学中のメンディエタは森林が豊かなアイオワ川の岸辺に暮らし、その住環境に多大な影響を受けたという。同大学在学時に16ミリフィルムでつくられた映像《エネルギー・チャージ》(1975)は、薄暗い木立の中央に立つ大木に、メンディエタのシルエットが重なり赤く発光する様子が描き出されている。シンプルながらも、本作は力強くダイレクトに彼女の気持ちを代弁していて清々しい。1983年にイタリアのアメリカン・アカデミーにおける「ローマ賞」のフェローシップとして選ばれた彼女は、ローマに滞在して広いアトリエを得て彫刻の制作を始める。ここではその代表作ともいえる《トーテム・グローブ》(1985)が展示室の正面に並んでいる。木の葉に描いた女性像も印象的だ。

「木立ち(The Grove)」の展示風景より © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Photo © Tate (Yilli Liu)
《無題》(1984) © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Courtesy of Marian Goodman Gallery and Alison Jacques, London

 「ザ・レパートリー(The Repertoire)」では写真による連作「シルエタ」シリーズ(1976)のひとつがとくに目を引く。海岸線につくられた人型のくぼみに撒かれた赤い顔料が、打ち寄せる波によって徐々に流されていき、それらの境界線が次第に失われてお互いが溶け込んでいくさまを映し出した写真群は胸を打つ。

《無題:シルエタ・シリーズ》(1976) © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Courtesy of Marian Goodman Gallery and Alison Jacques, London

 「ザ・コモンズ(The Commons)」は、1970年代後半にメンディエタがニューヨークやマイアミ、さらにはドイツのフランクフルトの公共の場で制作した作品を紹介するセクションとなっている。ここでは鑑賞者が実際に体感できる作品が並ぶ。《無題:シルエタ・シリーズ》(1978)はもともとはニューヨークの公共スペースの一角につくられ、本展に合わせて再制作されたもの。敷き詰められた枯れ葉のなかに木立が並び、奥には生き生きとしたグリーンの女体のシルエットが神々しく輝く。土と木と葉のアーシーな匂いで満ちていて、思わず深呼吸をしたくなる。

《無題:シルエタ・シリーズ》(1978/2026に再制作)の展示風景 © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Photo © Tate (Yili Liu)

 「ザ・レパートリー」と「ザ・コモンズ」に取り囲まれるようにしてある「ザ・スクール(The School)」には、アイオワ大学時代など若き日に制作した作品が並ぶ。10代で描いたとされる自画像は、その色鮮やかさが際立っている。大学院在籍中に制作した、化粧やウィッグ、シャンプーの泡などを用いて、自らの容姿の変化を記録した写真作品も展示されている。

「ザ・スクール」の展示風景。色鮮やかさが際立つ10代で描いたとされる自画像が並ぶ © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Photo © Tate (Yili Liu)

 5枚のスクリーンを並べた一角「ザ・リバー(The River)」では、英国では初公開となる映像作品をリマスター版で見せる。メンディエタは、1971年からの10年間で100本以上の映像作品を制作していたという。草の上に横たわり、その上の草と地面が呼吸によって上下する様子を映し出す《グラス・ブリージング》(1974)、カメラを見据えたメンディエタのクローズアップの頭皮から顔に向かって徐々に血が流れていく《スウェッティング・ブラッド》(1973)などが上映されている。

「ザ・リバー」の展示風景 © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Photo © Tate (Yili Liu)

 カリブ海の先住民族タイノ族の文化について、メンディエタは関心をもって学んでおり、自身の生死と復活への考え方へも影響を与えていた。「神聖なる大地(The Sacred Grounds)」と題されたセクションでは、古くから伝わる宗教的な儀式を取り入れた作品を見せている。黒い儀式用のキャンドルで構成された「シルエタ」シリーズの《ナニーゴ・ベリアル》(1976)は、本展でも実際に定期的に点火が行われている。

《ナニーゴ・ベリアル》(1976) © The Estate of Ana Mendieta Collection, LLC. Licensed by Artist Rights Society (ARS), New York. DACS 2026. Courtesy of Marian Goodman Gallery and Alison Jacques, London. Photo Alex Yudzon

編集部