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「福田尚代 あわいのほとり」(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)開幕レポート。境界をほどき、新たな生の誕生を目の当たりにする【2/2ページ】

 初期作品も展示されている。東京藝術大学の院生時代に制作された《不忍、蜘蛛の糸》(1992)は、横幅430センチメートルに及ぶ大型作品だ。遠くから見ると帯状の淡い色彩が混ざり合っているように見えるが、凝視すれば小さな文字で無数の「蓮」という字が書き込まれていることに気づく。福田が抱き続けてきた「言葉は小さな粒である」という感覚が、初期から表出していることがよくわかる作品だ。

《不忍、蜘蛛の糸》(1992)の展示の様子
《不忍、蜘蛛の糸》(1992、部分)

 さらに注目したいのは、少女マンガの登場人物をコラージュし、再構成したシリーズだ。輝く瞳、髪、細く長い指といった記号が解体され、粒子となり、そして新たな形へと生まれ変わっている。イメージが解体されているのにもかかわらず、少女マンガ特有の“らしさ”が息づいていることに、純粋な驚きを覚える。

《ひと粒の泡のなか》(2023)。経年による紙の褪色が独特の色合いと陰影を生み出している。紙の美しい張り合わせも目を引く

 「あわいのほとり」という展覧会名は、福田が続けてきた境界を解きほぐすような活動をよく表している。「ものを小さくしていく行為は手段であり、粒子になったそれらは、時間を超え、より遠くまで行ける感覚があります」と福田は語る。

 福田によって解体される前の消しゴムや言葉といった「もの」には、意味や用途といった役割があった。その役割から解放することで生まれた粒子の数々が、会場で新たな生をかたちづくっていく。作品の前に立つ我々は、世界が新しく生まれ変わる瞬間に立ち会っているのかもしれない。

編集部