いっぽうリトルは、YBA世代が残した重要なレガシーとして、「彼らが自ら組織し、自ら発信し、自らをブランディングしていった」点を挙げる。「既存の制度に許可を求めるのではなく、自分たちで場をつくり、可視化し、社会へと接続していった。そのスピード感は、いま私たちがソーシャルメディアを通して世界とつながる感覚と、とても近い」と語る。
リトルは、この「セルフ・キュレーション」の姿勢が、いまキャリアを築こうとする若い世代にとっても大きな示唆になるとし、「自分のやり方で、自分のスタイルを貫いていいという、とても肯定的なメッセージが、この展覧会全体を貫いている」と述べる。

さらにリトルは、1990年代がしばしば「平和で楽観的な時代」と語られるいっぽうで、「その出発点にあった英国社会は、決して穏やかな場所ではなかった」と指摘する。サッチャー政権の余波による分断、失業、深刻な格差、人種的緊張──そうした問題は、当時のアーティストたちが真正面から向き合っていた現実だった。「彼らが扱っていた問題は、いまも消えてはいない」とリトルは語る。

その意味で、本展が扱うテーマ──共同体の亀裂、帰属の問い、身体をめぐる政治性、日常のなかで尊厳が脅かされる感覚──は、いま私たちが直面する不安定な現実とも強く響き合う。過去をノスタルジーとして消費するのではなく、前向きで未来志向だった時代の精神を、同時に「現在形の問い」として引き寄せること。そこに、この時代の作品が持つ持続的な力がある。
本展は、1990年代英国美術を過去の伝説としてではなく、いまを生きるための思考と実践のヒントとして立ち上がらせる。大胆に行動し、自ら場をつくり、限られた条件のなかで表現を切り開いていく。その姿勢は、時代や世代を越えて、なお私たちに問いを投げかけ続ける。



















