展示会場の入口で来場者を迎えるのが、安藤英由樹による《かさなる、もつれる、かんそく》(2023)だ。高速な眼球運動(サッカード)を利用した「サッカードディスプレイ」により、まばたきや首を動かした一瞬だけ、空中に像が浮かび上がる。見るという行為そのものを揺さぶりながら、「観測」がどのように世界を立ち上げるのかを、身体的に体験させる作品である。
続く宇宙セクションでは、芸術表現と科学的事実が並ぶかたちで提示される。吉本英樹の《DAWN》(2023)は、金沢の極薄金箔やプラチナ箔に超短パルスレーザーで微細な加工を施し、裏側からの光によって陰影が変化する作品だ。その姿は、ゆっくりと動く天体を思わせる。伝統技法と先端技術を組み合わせたこの作品は、詩的なイメージを喚起しながらも、素材と加工精度という確かな技術に支えられて成立している点で、本展の方向性を象徴している。

そうした造形中心のアプローチとは異なるかたちで、宇宙と時間の広がりを示すのが、ARTSATプロジェクト(久保田昇弘、平川紀道、稲福孝信)による《ARTSAT Chronicle》(2026)である。2014年に打ち上げられた世界初の芸術衛星「ARTSAT1: INVADER」は、「ミッション[宇宙×芸術]」展の会期中も宇宙から音声や画像を送り続け、会期終了直後に大気圏へ再突入した


いっぽう、「はやぶさ2」とともに打ち上げられた深宇宙彫刻「ARTSAT2: DESPATCH」は、現在も太陽の周回軌道上にあり、地上と宇宙を結ぶメディアとしてプロジェクトの時間を延ばし続けている。本展では、その10年にわたる活動を振り返るクロニクル展示を通じて、宇宙を「遠い場所」ではなく、「現在進行形で関わり続ける環境」として捉え直す視点が提示されている。
本展で提示される「エンタングルメント(もつれ)」は、作品同士の関係にとどまらず、研究機関と美術館、研究者とアーティストの関係を結び直す概念としても機能する。高エネルギー加速器研究機構(KEK)のアーティスト・イン・レジデンス第1期として制作された、片岡純也+岩竹理恵の《KEK曲解模型群》(2025)は、その代表的な成果である。

2人はKEKに滞在し、研究者への取材や施設見学を重ねながら、科学的な現象や記述をあえて「曲解」し、模型として可視化した。正確さを再現するのではなく、ずれや置き換えを通して新たな意味を生み出す。その姿勢こそが、アートとサイエンスが出会う瞬間として示されている。

同様に研究データをもとに制作された作品として、平川紀道の《(non)semantic process[version for neutrinos detected by Super-Kamiokande]》(2026)がある。スーパーカミオカンデで検出された信号を時間軸に沿って可視化し、点として記録されたデータがアルファベットへと変換され、辞書に存在する単語として蓄積されていく。宇宙から届いた不可視の粒子が、言葉のかたちを取って現れるとき、観測はたんなる測定を超え、読み取りや解釈としての「鑑賞」へと重なっていく。




















